症状一覧

鼻疾患について

Ⅰ、概要

花粉症などのアレルギー性鼻炎や蓄膿症といった「鼻・副鼻腔疾患」にかかっている小学生の割合は12.0%で、中高校生や幼稚園児とともに過去最高の割合となったことが、文部科学省が実施した本年度の学校保健統計調査速報で分かった。
文科省は「アレルギー情報が一般的になり、これまで風邪と思っていたものがアレルギーと分かったケースもあると考えられ、実際にどこまで増えたのか把握しにくい」としている。
調査では、ほかの鼻・副鼻腔疾患割合は中学生11.1%、高校生8.4%、幼稚園児3.7%で、小学生も含め前年度比の0.1-0.4ポイント増。ぜんそくの小学生は3.9%、中学生3.1%、高校生1.8%で、いずれも前年度比0.1-0.2ポイント増えて過去最高。
幼稚園児は0.2ポイント減の2.2%という結果になった。

Ⅱ、鼻疾患一覧

鼻出血、急性副鼻腔炎、慢性鼻腔炎(蓄膿症)、鼻中隔弯曲症、肥厚性鼻炎、アレルギー性鼻炎、
花粉症、嗅覚障害、鼻前庭炎、鼻前庭湿疹、術後性頬部嚢腫、鼻腔・副鼻腔腫瘍

Ⅲ、鍼灸治療が有効とされる鼻の疾患

急性鼻炎
風邪に伴い発症することが多い。ウイルス性のものがほとんどで、くしゃみ、鼻水、鼻詰まりが主な症状。
慢性鼻炎
急性鼻炎の反復、持続的な物理・化学刺激などが原因で生じる鼻粘膜の炎症。
副鼻腔炎
蓄膿症といわている。細菌・ウイルス・アレルギーなどが原因で、副鼻腔に膿が溜まる。
アレルギー性鼻炎
花粉、ダニ、ハウスダストなどがアレルゲンとなって発症する発作性のクシャミ、鼻水。

1)アレルギー性鼻炎

アレルギー性鼻炎の症状には、鼻水、くしゃみ、鼻づまり、眼、鼻の痒みなどがある。
スギ・ダニ・ハウスダストなどのアレルゲン(アレルギーの原因)が鼻の中の粘膜に触れるとアレルギー反応が生じて、鼻水が多量に分泌され、鼻の粘膜が腫脹し空気の通り道が狭くなる。
アレルゲンと接することにより症状が出るので、まずアレルギーの原因が何かということを調べて、これを除去することが大事になる。皮内テストや血液検査からアレルギーの原因がわかるので検査をして自分のアレルゲンを確認することが重要である。
治療は抗アレルギー剤の内服、点鼻スプレーの併用などを行う。
症状がひどい時にはステロイド剤が含まれている内服、点鼻薬を使用する。これらの治療はあくまでアレルギー反応を抑えることにより症状を緩和するものなので、アレルギー体質が治る訳ではない。
しかし、アレルギーの原因を除去し、薬で症状を抑えることにより快適な日常生活を送れるようになるので、有効な治療と言える。
また、鼻の粘膜をレーザーで焼灼する手術も有効。アレルギー反応を起こす粘膜を焼灼することにより、アレルゲンにさらされる面積が狭くなり、鼻の空気の通り道も広くなるので症状は非常に良くなる。
アレルギー体質を根本的に治す唯一の治療として減感作療法というものがある。
アレルゲンを少しずつ注射してだんだん濃度を濃くしていく方法で、徐々にアレルゲンに慣れていくといった治療で、2年くらいの期間がかかること、効果が出る人が半分くらいであること、など根気のいる治療になる。

2)花粉症

スギやヒノキの花粉がアレルゲン(アレルギーの原因)であるアレルギー性鼻炎のことです。
春のスギ、ヒノキだけでなく、夏のカモガヤ、秋のブタクサなど季節によって飛散する花粉が異なってきます。
皮内テストや血液検査から反応する花粉の種類がわかるので検査を受けるのが良いと思われます。
環境、大気汚染、体質の変化などにより花粉症は発症するので、症状が無くても一度検査を受けることをおすすめします。
また、アレルギーの薬は花粉飛散前から内服すると予防効果も認められているので、早めに耳鼻咽喉科を受診し、内服治療を行うことが重要です。スギ花粉症の場合、1月中旬ごろから薬を飲み始めることをおすすめします。
花粉症のレーザー治療は、くしゃみ、鼻水、とくに鼻づまりでお困りの方におすすめです。
ただし、花粉症のシーズン中に施行すると、術後の反応が強く出るため、シーズン前に行うことをおすすめします。
つまり、花粉症のシーズンを快適に過ごすための予防的な治療となります。
また、最近、注射一本で花粉症が治るといった話を良く聞きます。
これはステロイド剤の注射のことで、確かにアレルギー反応を抑制する効果が強いため、症状の改善には劇的に効果があります。
副作用の可能性も考えられるため、耳鼻咽喉科専門医の間では一般的には行われていません。
しかし、たとえば人前で行う仕事(歌手、寿司屋の板前さんなど)や、大事な仕事の場合など、くしゃみ、鼻水が御法度の状況というのは起こり得ることであります。

スギ
スギ
ヒノキ
ヒノキ
カモガヤ
カモガヤ
ブタクサ
ブタクサ

3)嗅覚障害

鼻の一番奥(脳のすぐ下)にある、においを感知する神経(嗅神経)の障害で起こります。
多くは神経の場所まで、においの分子がたどり着けないために起こります。
副鼻腔炎でポリープがあったり、鼻炎で鼻の粘膜が腫れていたりする場合です。
また、においの神経は細いので頭を強くぶつけたり、風邪を引いたりすることによっても起こります。

腹部痛(abdominal pain)

Ⅰ 、定義

腹部領域に感じる疼痛を総称して腹痛と言う。

Ⅱ、腹痛の分類

腹痛は、次の3つの機序で起こるが、実際には複雑に混じりあった形で現れる。

1、内臓痛(visceral pain)

内臓自態に基づく疼痛で、内臓器官の伸展・痙攣などの刺激によって起こる。
臓器によって痛みのおこる部位は決まっているが、自律神経を介して感知されるため、病巣部と疼痛が一致しないことが多い。
痛みは灼熱痛や鈍痛で、多くは慢性で刺激が増強すれば限局することもある。筋強直や皮膚過敏などはない。
しかし、一般に鈍く、かつ痛みの部位も漠然としており、胃・十二指腸、肝臓、胆道、膵臓からの刺激は正中上腹部(心窩部のあたり)に、小腸、結腸(とくに回盲部)からの刺激は臍部に、また左側結腸から直腸および骨盤内臓器からの刺激は下腹部にそれぞれ疼痛として影響される。
内臓痛が起こると、悪心、嘔吐、発汗、脈拍の異常などの自律神経症状を伴うことが多い。

2、腹膜痛(体性痛 somatic pain)

内臓自態に基づく疼痛で、内臓器官の伸展・痙攣などの刺激によって起こる。
臓器によって痛みの起こる部位は決まっているが、自律神経を介して感知されるため、病巣部と疼痛が一致しないことが多い。
痛みは灼熱痛や鈍痛で、多くは慢性で刺激が増強すれば限局することもある。筋強直や皮膚過敏などはない。
しかし、一般に鈍く、かつ痛みの部位も漠然としており、胃・十二指腸、肝臓、胆道、膵臓からの刺激は正中上腹部(心窩部のあたり)に、小腸、結腸(とくに回盲部)からの刺激は臍部に、また左側結腸から直腸および骨盤内臓器からの刺激は下腹部にそれぞれ疼痛として影響される。
内臓痛が起こると、悪心、嘔吐、発汗、脈拍の異常などの自律神経症状を伴うことが多い。

3、関連痛

内臓器官の病変が、内臓知覚反射を介して、一定に部位に痛みが感じられるものを言う。
限局性の鋭い痛みで、筋強直や知覚過敏帯の形成を伴うことが少なくない。
障害臓器の支配神経と健康な臓器、筋肉あるいは皮膚の支配神経が同じ脊髄分節にある場合、障害臓器の痛みと同時に、これとは別個の離れた臓器や筋肉、皮膚に痛みや知覚過敏を訴える。
腹痛にはこの関連痛が含まれるため、真の内臓痛の起源を決定することが困難なことがある。
以上の疼痛の起因刺激をまとめると次の5つが挙げられる。

  1. 平滑筋の攣縮
  2. 内腔臓器壁の伸展
  3. 血流途絶
  4. 炎症性刺激
  5. 実質臓器の急激な腫脹

Ⅲ、腹痛部位と疾患

先に述べたように腹痛には、内臓痛・腹膜痛・関連痛があり、これらは混在することが多く、疼痛部位によって原因疾患を明確にすることは容易とはいえないが、痛む部位と特徴的な症状などからある程度特定することができる。

1、痛みの場所とその移動

  1. 虫垂炎:心窩部→右下腹部
  2. 胃・十二指腸潰瘍:上腹部→下腹部
  3. 大動脈瘤破裂:胸痛→腹痛

2、痛みの性質

1)発作的な激しい腹痛:激しい締め付けるような発作性疼痛が、一定時間に持続、休止を繰り返す。

  1. 上腹部痛:急性胃炎、食中毒、胆石症など。虫垂炎は上腹部痛発作から始まる。
  2. 下腹部痛:腎結石、輸尿管結石など。

2)持続的な激しい腹痛:臓器破裂や穿孔などが考えられ、この場合、腹膜炎を続発するので筋性防衛が起こる。

  1. 上腹部痛:胃潰瘍による穿孔、急性膵炎など。
  2. 下腹部痛:腸捻転(イレウス)、子宮外妊娠の破裂、虫垂炎の穿孔など。

3)持続性の鈍痛:軽い腹部臓器の疾患では、たいていの場合鈍痛を訴えることが多い。
慢性胃炎、慢性膵炎、慢性腸炎、胆のう炎、腸管の癒着による通過障害、内臓下垂症、回虫症などがあり、胃潰瘍の初期にも持続性の鈍痛がある。

4)放散痛:痛みが臓器より肩や背中に放散する場合、その状態によりおよその見当をつけることができる。

  1. 胃裏(左背部)→胃潰瘍
  2. 右上腹部から右背部・右肩→胆石症
  3. 外陰部から大腿内側→輸尿管結石、腎結石
  4. 腰や右大腿内側→虫垂炎

3、食事との関連

1)胃炎:食後すぐに痛みが起こることが多い。
2)消化性潰瘍:空腹痛があり、一日のライフサイクルと一致する一定のパターンがある。
  ①幽門部潰瘍→食後1~4時間。繰り返し起こる。
  ②十二指腸潰瘍→夜中(12時~2時)の上腹部痛
  その他、胆のう疾患・膵臓疾患でも典型的な空腹痛を起こすことがある。
3)胆のう疾患:脂肪食
4)膵臓疾患:過食、過飲者(脂肪食、アルコールなど)
5)胆道疾患:食後3~5時間、特に夕食後。
6)腸管膜血管障害(硬化・梗塞・塞栓):食後広い範囲。食事の量と関係深いです。

4、排便との関連

排便や放屁によって下腹部痛が消失する場合、一般的には機能的疾患が考えられるが、時には器質的疾患(結腸下部の障害)の可能性もある。

5、労作性疼痛

1)労作性狭心症
2)胃内ガス充満
3)血管のスパズムや内臓癒着では運動後に起こる
4)胆石・腎石症では自動車などで揺られた後に起こる

6、周期性

胃・十二指腸潰瘍では数日から数週間持続し、その後数ヶ月無症状期間が続き、再び発症を繰り返す。
潰瘍が進行するに従って無症状期間が短くなる。

7、急・慢性

1)急性腹症

  • 消化管
    ①消化性潰瘍 ②急性胃炎 ③急性腸炎 ④急性虫垂炎 ⑤腸閉塞 ⑥食中毒
  • 肝胆膵
    ①胆石症 ②急性膵炎
  • 尿路
    ①尿路結石 ②急性腎炎
  • 婦人性器
    ①生理痛 ②子宮外妊娠

2)慢性腹症

  • 消化管
    ①慢性胃炎 ②慢性腸炎 ③消化性潰瘍 ④便秘 ⑤過敏性大腸炎 ⑥下痢
  • 肝胆膵
    ①慢性膵炎 ②胆のう炎
  • 尿路
    ①膀胱炎 ②腎炎
  • 婦人性器
    ①子宮筋腫 ②子宮内膜炎

8、腹痛のない内臓疾患

1)内臓癌

  • 胃体部癌:かなり進行しても閉塞がなければ腹痛は起こらない。
  • 上行結腸癌:幅が広いのでかなり病巣が進展しなければ閉塞が起こらないので、痛みの出現が遅れる。

2)胃潰瘍
幽門や噴門から離れた部位の潰瘍では、あまり腹痛を訴えない。

便秘(constipation)について

Ⅰ、便秘とは

便秘とは、ヒト(または他の動物)において便の排泄が困難になっている状態の総称である。
原因は消化管の狭窄や閉塞による便の通過障害、臨床的には異常を認めない慢性型機能性便秘など多岐にわたる。
自覚症状として、血便、腹痛、吐き気、直腸残便感、腹部膨満感、下腹部痛、食欲不振、めまいなどのほか、肩や背中に放散痛を伴う場合がある。
健康時に比して排便の回数が減少し、あるいは便量が減少し、そのために不快感を伴うことを言う。
これには一時的なものと慢性持続性のものがありますが、前者は臨床的意義は少ない。
慢性持続性のものには、何らかの特別の原因によって起こるものと、そうでないものすなわち直腸癌、直腸の瘢痕性狭窄あるいは隣接器官よりの圧迫、やや上方の腸狭窄すなわち結腸癌、腹膜炎、虫垂炎の結果生じた腹膜癒着などの器質的原因、慢性腸カタル、脳膜炎などによる腸神経系支配異常、一般衰弱、胃酸過多、胃排出障害、その他旅行、食事の変更などである。

常習性便秘は独立的疾患とも見なすべきもので、次の2つに分けられる。

1)弛緩性便秘:常習性便秘の大部分はこれに属する。消化吸収容易で残渣を残さない食物の摂取、運動不足、排便を抑制する習慣、腹壁圧の減少(多産婦)、腸転位などが原因である。便秘は困難で回数少なく、多くは下剤または浣腸により始めて便通を見る。
2)緊張亢進性または痙攣性便秘:神経過敏症の人に来ることが多く、腸壁の痙攣のため糞便は分割され小塊としてまたは棒状となって排出される。X線検査で大腸内容が逆蠕動により腸内を逆行するのを認めることがある。(医学大辞典)

Ⅱ、定義

明確な定義は無く症状が患者の主観によるため定量化が難しく、定義は学会や国により異なる。
日本消化器病学会では、『便秘とは、排便の回数が減ること』としている。
2000年に米国消化器学会のコンセンサス会議で作成された便秘の診断基準では、「下腹部膨満感」、「排ガス量」、「排便回数」、「残便門の痛み」、「量」、「便の状態」を複合的に捉えたものに変更された。
これは、多くの患者が臨床上は正常な排便頻度(毎日)であっても「下腹部膨満感」「排便時のいきみ」「便の硬さ」「残便感」などを訴えるため、排便回数だけで便秘を評価するのは不十分と考えたためである。
3日以上の排便間隔と残便感を基準とし「排便の頻度が週2回以下で、便が硬く、排便困難、残便感がある状態」や「3日以上排便がない状態、または毎日排便があっても残便感がある状態」と考える専門家もいる。

Ⅲ、主な原因(成人)

急性と慢性に分類される。原因は多岐に渡り、急性の場合は医療機関での診断と治療が必要とされる。
特に、出血や狭窄を伴う場合は生命に関わる重篤な機転に及ぶ可能性がある。

分類解説
便秘急性機能性消化管に異常はないのに機能低下を起こして回数や量が減少
急性慢性器質性消化管そのものの病変が原因
機能性便秘
腸過敏性症候群を含む
腸過敏性症候群、生活習慣
慢性症候性(二次性)腫瘍、憩室の形成と進行に伴う症状
薬剤性薬物中毒、重金属中毒、薬の副作用
器質性消化管そのものの病変が原因

消化管に臨床的な異常を生じていない機能性便秘は、ストレスや食事内容の変化が原因となる「一過性便秘」と慢性的な「弛緩性便秘」、「痙攣性便秘」、「直腸性便秘」に分類される。

Ⅳ、症状

排便の停止や便量の減少を主症状として、腸の閉塞性疾患が原因になっている場合では、呼気の便臭、変形した便、血便、便潜血を伴う事がある。また、腹痛、吐き気、直腸残便感、腹部膨満感、下腹部痛、食欲不振、めまい、肩や背中の放散痛などを伴う事がある。

Ⅴ、ROMEIIIによる機能性便秘の診断基準

  1. 以下の症状がある。
    a、排便時の25%超がいきむ。
    b、排便の25%超が塊であったり硬い。
    c、排便時25%超で残便感がある。
    d、排便の25%超で肛門直腸閉塞感がある。
    e、排便を促すために25%超で用手法を使う。
    f、排便が週3回未満。
  2. 下剤を使わないのに軟便となることはまれ。
  3. 過敏性腸症候群の基準を満たさない。

Ⅵ、治療法

灸とはりの効用

  1. 朝食後に、胃一直腸反射で排便をするように習慣づける。
  2. 時間をかけて排便するように心掛ける。
  3. 繊維の多い野菜類、生野菜、海草類、小豆や大豆などの豆類、果物などをなるべくたくさん食べる。朝起きぬけにコップ一杯の水を飲むこともよい。
  4. 適宜な運動をして、腸の蠕動運動を促す。
  5. 下剤は原則として用いない方がよい。用いるとすれば大黄がよい。老人には「涃腸湯」という処方がある。

(処方)腎兪・大腸兪・次膠・中院・天枢・大巨・合谷・足三里

Ⅶ、養生法

原因のはっきりしているものは、それに合った治療をするが、常習性便秘の養生法は以下の通りである。

  • 毎日一回、決まった時間にトイレに行く習慣をつける。便意がなくても、朝に一度はトイレに必ず行き、排便をしようと努力する。しかし、本当に出そうもないのに長時間座り続けるのは良くない。
  • 積極的に体操や水泳などの運動に心がけ、腹筋を鍛える。一見、腹筋は関係なさそうであるが、腹の筋肉の強化は排便の上で大切になる。腹部のマッサージも効果的である。
  • 朝、起きぬけに冷たい水や牛乳を飲むのも良い。食物繊維を積極的にとり、一日3食を心掛ける。

冷え症(feeling of cold)

Ⅰ、定義

冷え症とは、身体の特定の部位が特に冷たく感じる場合を言う。すなわち腰や足、手などの体のある部分だけが冷たく感じることである。
全身が冷たく感じるのは冷え症でなく、単に寒がりと言う。冷えを訴える部分に触ってみると、他の場所より2度以上低くなっていることが分かる。
冷え症は自律神経機能の失調が血管運動機能を障害し、冷感部位の毛細管の攣縮を起こし、患部の血行が妨げられ、その結果として冷たく感じると言われている。
自律神経失調症がどうして起こるのか明確な理由は判明していないが、ホルモンの変動や精神的な動揺が影響を与ええいることは判明している。
というのは、自律神経の中枢(司令部)もホルモンの中枢も脳の中の間脳視床下部にあり、互いに影響し合っているからである。
さらにここには、情動の中枢(喜怒哀楽と関係)や本能的欲求(食欲・睡眠など)の中枢なども位置し、精神的な影響を受け易いのである。
本来、婦人の約半数は存在するといわれ、その理由が上記と関係がある。
女性の体は排卵、月経というホルモンの変動を繰り返すため、その影響を受けて自律神経の働きも不安定になり易い。
特にホルモンのバランスが崩れやすい更年期や思春期には増加傾向がある。
また、閉経期に多く見られる。この時期は色々な不快な症状(自律神経失調症状)が現れるようになる。冷え症の女性は基礎体温を測っておくことも大切になる。
冬季に多いが、冷房機器の普及に従って夏季に、また職業的に見られるようになったが、その大部分は西洋医学的には治療の対象とならない生理的な範囲に属するものと考えられている。
治療の対象としているのは、貧血や血管障害のために起こる冷感の訴えである。
身体の特定の部分が特に冷たく感じる場合、自律神経機能の失調が血管運動機能を障害し、冷患部の毛細胞の攣縮を起こし、患部の血行が妨げられる。
冷え症は、身体の他の部分は、まったく冷たさを感じないような室温において、身体の特定部位のみが特に冷たく感じる場合で、腰部・足・下肢の順に多く、まれに手・腹・背部などにも見られる。

Ⅱ、病態生理

自律神経機能の失調が血管運動機能を障害し、毛細血管の攣縮を起こし、患部の血行が妨げられて冷たく感じると考えられている。
また、内分泌変動が自律神経中枢の機能失調を来たすことも考えられ、思春期、妊娠産褥期や更年期の時期によく見られる。
自律神経は、気温が上昇すると、体表の血管を広げて血流を良くし、体内の熱を体外に発散させる働きをし、逆に気温が下がれば、体表の血管を緊張させて血流を少なくし、熱の放散を防ぐ。緊張の度が過ぎ、血流を抑え込んでしまうと、熱の供給が不足して体表が冷たくなる一方、自律神経機能異常を認めない心因性の皮膚冷感異常も存在する。
本症には、貧血、低血圧を合併することが多く、その他、血行障害を惹気する疾患との鑑別が必要である。
また、ホルモンの病気や膠原病などもある。

  1. 貧血症
    顔面その他の皮膚あるいは眼瞼・口腔粘膜が蒼白、動悸、息切れなどの訴えによって貧血が疑われるが、最終的な診断は血液検査を行って決定する。
  2. レイノー病
    冷たい水に手を入れたりした時に手指が蒼白になり、痛みを伴うことを訴える。
    日常的に手指の冷感を訴え、触診して見ると冷たい感じがすることが多い。
  3. 大動脈炎症候群
    若い女性に多く、血管の閉塞化に伴う血流障害のため、手足の冷感を訴える。
    脈拍、血圧に左右差があり、色々な部位の動脈で血管雑音が聞かれる。
  4. バージャー病(ビュルガー病、閉塞性血栓血管炎)
    若年男子に好発し、日本人に特異的に多いといわれている。
    一次的に動脈炎が起こり、二次的に血栓を来たす。好発部位は下肢で間歇性跛行症を起こす。
  5. 甲状腺機能低下症
    全身倦怠、皮膚の乾燥、顔面は浮腫状で鞍鼻、口唇は厚く典型的な顔貌を示す。
    寒さに敏感で、言語緩慢、記憶力障害を伴う。

Ⅲ、診察

1、視診

口唇の色が冴えず、唇の周りから下顎にかけて血色が悪く、薄墨を塗ったように黒ずんで見え、顔色が冴えない。
体型的には痩せ型で無力性体質で、胃アトニーや胃下垂など胃腸の弱いものが多く、低血圧や貧血を伴う者は、ほとんど冷え症を訴える。
肥満型でも皮膚が白く柔らかく、筋肉に締まりがなく、浮腫性顔望を呈している場合は、冷え症であることが少なくない。また、皮膚の光沢が悪く、下腹部に手術痕があるようなものは、足腰の冷えを訴える場合が多い。

2、触診

左下腹部に瘀血といわれる特有の圧迫抵抗や硬結が触知されることがある。
また、弛緩傾向がみられ、手足は湿っぽく、油手、油足のものが多い。

3、問診

女性に多く、性腺ホルモン不足のため月経異常や子宮発育不全などの傾向のある者に、冷え症の愁訴を有するものが少なくない。家族の遺伝的体質傾向も参考になる。
骨盤内臓器に炎症性疾患がある場合、内部充血が促進されて皮膚の貧血を来たし、「下半身が水につかったような」「腰に風が吹き込むような」感じの冷えを、腰・下腹・下肢部に訴える者が多い。

4、検査

  1. 自律神経失調症:不定愁訴の有無をよく問診し、同時に自律神経機能検査を行う。
  2. 貧血症:末梢血液の血球算定を行う。
  3. レイノー病:手指のサーモグラフィを行う。
  4. 大動脈炎症候群:CRP(C反応性蛋白試験)などの炎症所見と血管像影検査が必要。
  5. その他

効果の良い症状

  • 不定愁訴の少ないもの
  • 自律神経機能の失調が血管運動機能を障害し、冷感部位の毛細管の攣縮を起こし、患部の血行が妨げられるもの。

効果の良くない症状

  • 不定愁訴が多いもの
  • 下腹部に手術痕があり、腹壁が弛緩しているもの
  • 心因性による冷えや、体力活性の低下によるもの。鉄欠乏性貧血・低血圧症などと合併している場合は効果が出にくい。また、レイノー病やバージャ病など原病の存在しているものでは期待できない。

Ⅳ、鍼灸治療

本症に対する治療法は現代医学ではほとんど見当たりませんが、鍼灸治療では卓効を奏する者が多い。
自律神経失調症による冷えに対しては、自律神経の安定を目標に行い、精神療法や自律神経訓練療法なども併用すると良い。その他の器質的疾患に対しては、現疾患の治療を基本とする。
すでに述べたように冷え症は、主訴以外の随伴症状として訴えられるもので、比較的慢性的な経過を示す症候名で、冷え症そのものを主訴として来院する患者はまれである。
そこで、鍼灸治療は冷えに対する局所的な対症治療のみでなく、漢方医学の概念に基づき、身体全体の機能を調整する本治法を主とし、冷えに対する特効穴を組み合わせて、それぞれの患者に合わせた治療方針を立てる。

変形性腰椎症について

Ⅰ、どんな病気か

背骨(脊椎)の椎体(背骨の一個一個)と椎体との間にはさまっていて、クッションの役目をしている椎間板が薄くなったり、椎体の端がささくれてきたりする変化を、変形性脊椎症と言う。
骨と椎間板の老化によっておこるもので、変形性関節症(「変形性関節症とは」)と同類の病気である。
脊椎のうち、腰の部分におきた変形性脊椎症を、腰部変形性脊椎症または変形性腰椎症といい、変形性脊椎症の多くは、ここに起こる。
次いで頻度の高いのは、首の脊椎におこる頸部変形性脊椎症(けいぶへんけいせいせきついしょう)(変形性頸椎症(頚部変形性脊椎症)」)で、これ以外の部分におこる変形性脊椎症は稀である。
人類が2本の足で立ち、歩き始めて以来、人間と腰椎とは切っても切れない関係であり、4本足で体重を支える動物とは違い上半身の体重が垂直方向にかかるため、腰の骨や筋肉への負担が大きいのである。
しかし、腰痛と言っても、急性のギックリ腰や慢性的な痛み、さらにはレントゲンでも異常が見られないもの、背骨やその周辺の筋肉が原因となるもの、内臓疾患や精神的ストレスなどと、その原因は様々である。
高齢者が腰痛を訴えるときは、加齢によって背骨に異常がある場合が多い。よく見られるのが変形性腰椎症である。
背骨は椎骨という30個のブロックでできている。そのうち、腰にある5つが腰椎である。
椎骨間には軟骨と繊維でできたゼリー状の椎間板がクッションの役目をしている。
ところがこの椎間板は加齢と共に水分が減少し、弾力性を失う。すると、椎骨の縁部分が変形し、椎間板のある隙間が狭くなる。
また椎骨増殖し、棘状のものをつくって神経を圧迫する。それにより腰がだるい、重い、しびれる、痛むといった症状が起こってくる。

Ⅱ、変形性腰椎症になりやすい人

変形性腰椎症になりやすい人
  • 40歳以上の高齢者
    加齢が主な原因の病気であるため、高齢者の特に男性に多くみられる。
    椎間板ヘルニアが比較的若い世代に多くみられるのに対し、変形性腰椎症は高齢者の腰痛の主な原因となっている。
  • 長年腰に負担をかけ続けてきた人
    重労働者、肥満気味の人、腰を使う激しいスポーツを続けた人、若いころから腰痛持ちの人、腰のけがや病気を繰り返している人などは腰骨や椎間板が疲弊し変形しやすい。
  • 更年期障害のある中高年の女性
    女性の場合は更年期障害の一部として起こるケースが多い。

Ⅲ、症状

だるい、重い、鈍く痛むなどの腰の症状が中心ですが、下肢(脚(あし))にしびれや冷感をおぼえることもある。
痛みは、腰から臀部(でんぶ)(おしり)にかけての広い範囲に感じ、手のひらをあてて痛む範囲を示せても、指で示すことはできないのが特徴である。
変形性腰椎症が高じて、腰椎での神経の通り道が狭くなった状態が、腰部脊柱管狭窄症である。
腰痛だけでなく、脚のしびれや痛みがでてきたら、この腰部脊柱管狭窄症を考える。
また、ただ椎間板だけが傷んでいてそこから痛みが出る場合は腰椎椎間板症、傷んだ椎間板が何かのきっかけで膨らんだり飛び出したりして神経を圧迫して脚のいたみがでる状態を椎間板ヘルニアと呼んでいる。
この病気が進んで、腰部脊柱管狭窄症(「腰部脊柱管狭窄症」)起こると、休み休みでなければ歩けなくなる。
腰部変形性脊椎症が起こっても、まったく症状がなく、何かの機会に腰のX線写真を撮って、偶然見つかることもかなりある。

一日の痛みの変動について

  • 起床時や動作時の開始に痛む
    →椎間関節症・腰部脊柱管狭窄症が考えられる。
  • 安静時に増悪する痛み
    →ヘルペス後神経痛・癌の脊椎転移などの腰痛が考えられる。
    注意 この痛み方は早急に専門病院へ行くことを勧める。
  • 体重減少がひどい。食欲不振。排尿障害がある場合は専門の先生に要相談。

ギックリ腰と思っていたら?

一いま、腰ベルトを巻いて、痛み止めを服用一
変形性腰椎症の原因は、腰椎における年齢的な変化で、その主因は椎間板の変化である。
椎間板は脊椎を構成する椎骨間にある軟組織で自動車のタイヤの様な役割をしているが、これが変性を起こすと、タイヤの空気圧が減ったような状態になる。この状態で腰椎にいろいろな運動が負荷されると、その他の部分に生理的範囲を超えた負荷が加わるようになる。主な症状は腰痛で腰の骨に変形が起こると姿勢が悪くなる。
椎間板が左右非対称に変形、変性したり、椎骨自体が左右非対称に変形することがある。
腰椎は、正常では軽く前方に湾曲しているが、変形によって後ろに曲がって後弯(いわゆる腰曲がり)になったり、側方に曲がって側弯が起こる。
しかし、変形があっても痛みがなければ、とくに問題はない。
腰椎X線検査で加齢的変化がみられれば、変形性腰椎症と診断できる。しかしその場合は、MRI画像検査で腰椎椎間板ヘルニアや、腰部脊柱管狭窄症、変性すべり症等がないことを確認する必要もある。
腰痛以外の脚の痛みやしびれなどの症状を伴っている場合は、加齢的な変化が基盤になっており、変形性腰椎症の範疇に入るが、椎間板の変形変性具合等、原因がはっきりすれば、腰椎椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症と診断されることもある。
椎骨のずれがある場合は、変性すべり症と診断されることもある。
治療の基本は痛みに対する消炎鎮痛剤の服用等、対症療法で、日常生活に支障を来さないようにする。対症療法では腰椎の変形や変性を治すことはできないが、老化が原因で起こっている疾患なので、手術が必要になるようなことはあまりない。薬物療法では非ステロイド性消炎鎮痛薬や筋弛緩薬を投与する。疼痛が強い時は、局所麻酔薬を用いて神経ブロックの注射も行われる。
また、日常生活上の注意や腰痛体操も、腰痛の軽減や予防につながる。腰痛は人類が二足歩行を始めた事により上半身の体重が腰椎に集中して負荷を与える事によって罹患する進化に則した疾病とも言えるので、妊娠や出産の経験の無い若い方のご相談であるなら日常生活に付帯した積極的な運動療法を行わなければ疾病の進行によって人生設計の変更を余儀なくされる場合があるので注意が必要である。

Ⅳ、治療

症状がなければ、治療の必要はなく、これまでどおりの生活を送って問題ない。
症状があっても、できるだけ身体を動かし、ふつうに生活することが大切で、安静にしすぎると、筋肉が衰えて、かえって症状が出やすくなる。
お年寄りでは、寝たままでいたりすると、立つことも歩くこともできなくなる危険がある。
腰が冷えると症状を強く感じがちで、冷やさないようにすることが大切になる。
変形性腰椎症は、朝起きたときに最も症状が強く、体を起こしていれば徐々に痛みは和らぐ。
また、ちょっとしたことでギックリ腰を起こしやすくなる傾向があるため、日常の中の動作に気を配る。
治療法は、腰痛が強い場合はまず安静にして消炎鎮痛剤や筋弛緩剤などを使用する。神経の通っているところに麻酔薬を直接投与する神経ブロックも効果的である。症状を軽減するために東洋医学的治療も有効である。
また、腰を冷やすと痛みが増す傾向があるため、炎症が始まったら温熱療法などを取り入れると良い。

保存療法

変形性腰椎症は自然な老化現象の一つで、症状を和らげるための保存的療法(手術以外の治療法)が基本になる。

鍼灸治療

変形性腰椎症
三焦兪・腎兪・志室・大腸兪・気海兪・次髎・曲池・居髎・承扶・殷門・血海・膝陽関・陽陵泉・陰陵泉・足三里・委中・承山・三陰交・解渓・衝陽・夾脊穴
腰腿痛
環跳・殷門・陽陵泉・挺腰・谿上・腸膝中・殷上・外陰廉・股下・踝辺・七穴・十四穴
腰足不仁(歩行力なし)
関元 500社
腰部大腿部の炎症
環跳

日常生活における対策・予防法

痛みなどの症状があっても、安静にしすぎると筋肉などの組織が弱り、老化や症状の悪化を招いてかえってよくないため、腰に大きな負担をかけない範囲でできる限り普通の生活をし、積極的に身体を動かすことを心がける。
軽い散歩をするだけでも全然違ってくるので、できれば日常的に柔軟体操や軽い筋肉トレーニングを行うのが理想的である。そのほか、腰をカイロや蒸しタオルで温めたり、お風呂にゆっくり入ると症状は楽になりやすい。

温熱療法

腰を温めると症状が和らぐので、家庭でお風呂に入るのも立派な温熱療法です。ぬるめのお湯にゆっくり入るように心掛ける。
お風呂あがりなどに、腰痛体操を行ない、腰の周囲の筋肉を鍛えると、さらに効果的である。ホットパックや超短波を用いて、腰を温める療法もある。

膝関節痛について

Ⅰ、膝の病気が若い人によく起こるのはなぜ?

若年齢における膝の疾患ではスポーツ中のケガが多く見られる。以下の表はスポーツ中の部位ごとの疾患の発症頻度の統計で、圧倒的に膝を含む下半身に集中しており、膝関節・大腿が一番多い。

膝関節・太腿約25%
約25%
足関節・下腿約10%
その他約40%

スポーツ中にケガをする原因は、過度に使用したためにおこる関節炎である。
転倒、ジャンプの着地などバランスをくずした倒れ方でひねったりしたためにおこる半月板損傷や靭帯損傷、直接外部からの力が作用しておこる捻挫・打撲などがある。下に記す表はスポーツによって膝に発生する疾患の大まかな頻度である。

関節炎・関節痛約32%
捻挫・打撲約18%
半月板損傷約16%
その他約34%

スポーツ別で見ると頻度の多い順にバスケットボール・ハンドボール・陸上(中長距離)・サッカー等で運動量や、相手との接触の多いスポーツが挙げられる。
また、学生や社会人などで運動部に属しているスポーツ選手で18歳から20歳の若年層が過半数を占めている。

Ⅱ、膝関節痛を訴える疾患

疾患症状
半月板損傷スポーツ外傷によるものが最も多く、関節水腫、伸展時の雑音、疼痛、関節裂隙圧痛、四頭筋萎縮などを主症状とする。変形性関節症に続発する発症緩徐なものもある。
以下の検査により判明する。
マクマレー:外旋一内側半月板 内旋一外側半月板 アプレー(圧迫):外旋一内側半月板 内旋一外側半月板
靱帯損傷
①側副靱帯損傷
靭帯上にある著名な圧痛が特徴的。断裂のある場合は関節の側方動揺性がみられ、アプレー牽引テストも陽性。
注:側方動揺は変形性関節症による靭帯の弛みにおいても出現。
アプレー(牽引):外旋一内側側副靭帯
内旋一外側側副勒带
②十字靱帯断裂かなりの強い外傷によってのみ起こる。十字靭帯引き出しテストで判明。
注:引き出しテストは靭帯断裂以外の動揺関節においても陽性となることがある。
変形性関節症初老期女性に多い。痛みは運動開始時や負荷動作によって増悪する。
関節運動時の軋音、関節裂隙部の圧痛(特に内側)、内反膝などの症状を呈する。
関節遊離体膝の疼痛、腫脹、時には嵌頓症状を呈することも無症状のこともある。
いろいろな原因によるが、最も重要なものは離断性骨軟骨炎である。
滑液包炎罹患滑液胞の腫脹を主徴とする。
膝蓋骨骨軟化症膝前面に鋭い痛みがあり、進行したものでは膝蓋骨
を上下左右に動かすと、観音や疼痛を生じる。
大腿膝蓋関節面テスト
オスグッド・シュラッテル病13~15歳の男子に多発する。運動・歩行により脛骨
結節部を中心とする疼痛が増悪する。
関節リウマチ他関節症状
その他外反膝、内反膝、反張膝、膝蓋骨奇形、骨折、脱臼、
結核性関節炎、化膿性関節炎、血友病、痛風、腫瘍、
片麻痺他

Ⅲ、膝関節痛と他の疾患の鑑別

膝関節の疼痛性疾患を鑑別診断するには、患者を仰臥位にして、下肢の短縮、萎縮、膝の腫脹、熱の有無、関節の屈伸機能、捻髪音の有無、他の関節との関係を診る。

疾病主症状
リウマチ熱高熱、遊走性多発関節炎、心症状
リウマチ様関節炎慢性経過にて関節炎を起こす。関節変形
結核性関節炎不定の疼痛、腫脹、のちには病的な位置となる
漿液性関節炎腫脹、疼痛、膨隆部波動
化膿性胃節炎腫脹、疼痛、発赤、高熱
淋毒性関節炎腫脹、発赤、熱感、激痛
梅毒性関節炎対側性関節腫脹、疼痛軽徴
血友病性関節炎関節内出血、皮下の出血
変形性関節炎歩行痛、関節液、捻髪音、関節端変形
関節鼠関節間の遊離体、突然の激痛
外傷打撲、捻挫、脱臼、骨折

坐骨神経痛について

Ⅰ、坐骨神経とは

坐骨神経は脊髄髄節から伸びている末梢神経のひとつである。末梢神経は脊髄と全身の体の筋肉の連絡を受け持ち、全身の運動を制御している。
そのうち腰から骨盤、お尻を通って足先にまで伸びているのが坐骨神経と呼ばれる神経で、人体の中で最大の神経でペン軸ほどの太さがある。また、非常に長さの長い神経で、抹消までの長さは1m以上もある。
臀部から太もものうしろがわを通って膝の近くで、すねの方とふくらはぎの方と二またに別れて走行し、足の甲と足の裏に続いている。具体的には、坐骨神経は腰椎の4、5番目の神経と1~3番目の仙骨の前面から出る神経の束が合わさり、梨状筋(お尻の筋)の下から大腿の後ろの面を通り、膝の裏の上(大腿の下3分の1の高さ)で総腓骨神経と脛骨神経の前後とに分かれて走行している。
また坐骨神経は皮膚に近い位置を走っているのが特徴で、皮膚に近いという事は坐骨神経は、圧迫を受けた際の影響が出やすいという意味でもある。
つまり、坐骨神経痛は、神経が腰椎の隙間から出て骨盤をくぐり抜け、お尻の筋肉から顔を出す間のどこかで、圧迫や絞扼などの障害を受けた為に発症すると言える。
そして、歩いたり転ばないようにバランスをとったりするためにも、脳(中枢)から脊髄を通り、下肢の動きに関してはこの坐骨神経(末梢神経)に無意識に指令が出ているといわれている。

Ⅱ、坐骨神経痛とは

坐骨神経痛とは

坐骨神経痛とは、「症状」の表現であり、病名ではない。
「坐骨神経痛」の名前が示すとおり、坐骨神経が圧迫されることによって生じる「神経痛」を総称して坐骨神経痛と言う。臀部から大腿後面にかけて鋭い痛みを自覚する“症状”であり、“病名”ではない。
整形外科外来で坐骨神経痛を訴える患者さんは、主に腰椎疾患の症状として、腰痛の次に多く見られるが、その原因となる疾患は様々である。

坐骨神経痛は末梢神経のなかで最も太く長い神経で、第4、5腰神経と第1~3仙骨神経からなり、梨状筋の下を通って大腿後面を下行し、膝の裏で総腓骨神経と脛骨神経に分かれる(図1)。
つまり、坐骨神経痛は、神経が腰椎の隙間から出て骨盤をくぐり抜け、お尻の筋肉から顔を出す間のどこかで、圧迫や絞扼などの障害を受けた為に発症すると考えられている。大腿後面から足部にかけての広い範囲の運動と知覚を支配しているために、この神経が障害されると、片側の臀部、大腿(太もも)の後面、ふくらはぎが痛み、かかとやくるぶしのほうまで痛みが響くことがある。
また、症状が深刻になると、脚の痺れが徐々に下まで伸びていき、脚の指先まで痺れるケースも出てくる。
坐骨神経は、臀部、太ももの裏など、下半身の後ろを通っているため臀部から足の指の範囲に症状が出ることが多い。
また、天候などによっても症状が不規則に変化するという特徴も持っている。坐骨神経痛が、ぎっくり腰やヘルニア以上に「厄介」だとされるのはその痛みの特徴にある。具体的には、これらのものである。

  • 激痛もあるが、比較的鈍痛が多い
  • 痺れ、痛みは限定的な動作に伴う
  • 常に不快な思いが伴う

坐骨神経痛は、ぎっくり腰や椎間板ヘルニアのように極端な激痛が襲ってくることがあまりないことや、我慢できない痛みではないという症状が、坐骨神経痛を負っている人を病院から遠ざけ、限定的な動きをした時だけ、痺れたり何だか気持ち悪い感覚が続くといったような症状だからこそ逆に油断してしまい、専門家での診察を遅らせ症状を悪化させてしまうといったような悪循環をもつくってしまうこともある。
また、坐骨神経痛は筋肉・骨の強度が衰えてくる中高年の世代に最も多く発症する症状だが若い世代の人の発症も少なくはない。

Ⅲ、原因は坐骨神経が刺激、圧迫、浸潤されておこる

腰部には種々の疾患があるが、多いのは椎間板ヘルニア、脊椎腫瘍(ガンなど)、脊柱間狭窄症、脊椎分離症、脊椎すべり症、腰部変形性脊椎症などで、神経が刺激、圧迫、浸潤されて起こる。また、帯状疱疹、糖尿病、慢性アルコール中毒症などが原因になることもある。
年齢により異なりますが、若い人の場合、最も多いのは、腰椎椎間板ヘルニア、次に梨状筋症候群が挙げられる。

腰椎椎間板ヘルニアは比較的急激には発症し、ラセーグ徴候といって、仰向けの状態で下肢を伸展挙上すると、坐骨神経痛が増強するのが特徴的である。

ほとんどの場合、片側の坐骨神経痛が出現するが、ヘルニアの位置や大きさにより両側に見られることもある。

梨状筋症候群は比較的緩徐に発生し、通常はラセーグ徴候が陰性となる。梨状筋間で坐骨神経が絞扼され、仕事や運動でストレスが加わり発症することが多いようである。比較的稀な疾患とされているが、約10%の頻度で坐骨神経のバリエーションが存在することから、見過ごされていることも少なくないと思われる。

一方、高齢者では変形性腰椎症や腰部脊柱管狭窄症などの変形疾患に多く見られ、また、帯状疱疹により坐骨神経痛を発症する場合もある。その他、年齢に関係なく特殊な疾患として、脊髄腫瘍や骨盤内腫瘍などが挙げられる。

こういった腫瘍性の病変で坐骨神経痛を発症する場合は、痛みが非常に強く、保存的治療で治りにくいのが特徴である。

坐骨神経痛の原因は年齢により異なるが、比較的多いのがぎっくり腰から腰痛が慢性化したもの、次に梨状筋症候群が挙げられる。梨状筋は股関節を足先を外に向けさせる働きがあり、仙骨から足の付け根に付いている。

この梨状筋が炎症もしくは過度の緊張状態になると、その下を通る坐骨神経を圧迫して神経の走行に沿って痛みが出る。

脊柱管狭窄症とは腰椎が老化などにより変形し、脊柱管が狭くなって神経を圧迫し痛みが現れる。

主な特徴は“間欠性跛行”という症状で、数分の歩行で両足又は、片足全体に痛みやしびれなどが出現するが、しばらく休息をとると再び歩行ができるようになる。

また帯状疱疹(一度水痘になると、例え水痘が治癒しても水痘のウイルスが神経節の中に潜伏している状態が続き、ストレスや心労、老齢、抗がん剤治療・日光等の刺激によって再活性化すること)により坐骨神経痛を発症する場合もある。
最近、増えてきているのが椎間板ヘルニアによる坐骨神経痛である。これは腰椎の椎骨の間にある椎間板(衝撃吸収材)が限界を超えてしまい、外に飛び出してしまった状態(ヘルニア)を指す。
飛び出た椎間板が脊椎に走る神経束を圧迫してしまい、結果的に圧迫された神経に対応する部分が痺れてしまい、つまりは直接の痛みの原因となる。ヘルニアが長期的に神経根を圧迫してしまうと、やがて炎症を起こし神経根状態になってしまう。
そして、神経根炎が長期に渡ると周辺の繊維化や癒着が起こり、変性した神経組織は元の状態に回復することが不可能になる。

Ⅳ、坐骨神経痛に関わる主な疾患

坐骨神経痛に関わる主な疾患
  • 椎間板ヘルニア
    椎間板は背骨を構成している椎骨の間にあり、体への衝撃を吸収するという重要な役割がある。椎間板は弾力性があり、負荷によってはみ出してしまうことがある。この時、神経が刺激されると、坐骨神経の通っている範囲に症状が出てくる。
  • 脊柱管狭窄症
    神経が通っている背骨の中央にあるトンネルが、老化などによって狭くなってしまうことで症状が出てくる。
    長時間歩いていると、腰の痛み、足の方へ痛みやしびれ、つっぱり感が出るようになり、休憩を入れなければ足が前に出なくなることもある。
    また、頚椎の部分が誘引の場合もあり、腕に症状が出ることもある。
  • 腰椎の分離・すべり症
    腰椎の分離症は、腰の骨のある部分が切れてしまうことで、レントゲンで確認することができる。
    分離しているからといって、必ずしも腰痛などの症状があるとは限らない。
    しかし、問題なのは、この部分が不安定になった場合で、分離した状態では切れた部分から骨が前方へズレるようにすべってしまい、神経が刺激されことによって坐骨神経痛や脊柱管狭窄症の症状を起こすことになる。
  • 梨状筋症候群
    梨状筋(りじょうきん)は臀部にある筋肉で、スポーツや仕事などで腰や股関節などに負担がかかり続けると、坐骨神経を圧迫して坐骨神経痛の症状が現れる。
  • 腫瘍
    背骨に癌が転移した場合や、年齢に関係なく脊髄腫瘍や骨盤内腫瘍などが挙げられ、腫瘍性の病変で坐骨神経痛を発症する場合は、痛みが非常に強く保存的治療で治りにくいのが特徴である。
  • カルシウム不足によるもの
    人間の体は副甲状腺ホルモンの働きを使って骨からカルシウムを取り出し、血液中のカルシウム濃度を維持しようとする。この時、筋肉細胞中のカルシウムイオン濃度のバランスが崩れ筋肉の異常収縮・異常緊張が起こる。
    慢性的な異常緊張は、骨格筋周辺の抹消神経を圧迫して傷つけ、肩こり・腰痛・坐骨神経痛の原因をつくる。

Ⅴ、坐骨神経痛の症状

坐骨神経痛の症状

坐骨神経痛の症状を感じる代表的な場所は、「お尻、太ももの裏・すね・ふくらはぎ」があるが、どこか一部分だけに坐骨神経痛症状を強く感じるケースもあれば、足に激痛が走り足全体に坐骨神経痛症状を強く感じるケースもある。
坐骨神経痛とそれに伴う主な症状としては、これらが挙げられる。

  1. 腰の痛み、臀部の痛み
  2. 太ももの裏、足へかけての痛み、しびれ
  3. 体を動かすと痛みやしびれが悪化する
  4. 痛みのため歩行が困難になる
  5. 足に力が入らなくなる
  6. 足の筋肉が左右で差が出てくる

上記を見てもわかるように、坐骨神経はとても長い神経であるため、広範囲に症状を出す可能性があり、とても重要であることが言える。 この坐骨神経がどの部分で障害されるかにより、症状の出る範囲や症状も違うが、坐骨神経痛が起きている場合、腰部やお尻などに筋肉の緊張がみられるケースも多く、坐骨神経痛に併せて不快な症状を感じる場合もある。
ほとんどの場合は、片側のお尻や下肢に痛みやしびれが出るが、両側に症状が出ている場合は早急に病院へ行く方が良い。
悪化すると肛門周囲へしびれが生じたり、排尿障害になることもある。
また、坐骨神経痛の症状は、坐骨神経痛の名の通り”痛み”として感じる事が多いが、坐骨神経痛による症状を痛みでなく、痺れ・熱感・冷感、引きつれで感じる事がある。そのため、坐骨神経痛症状が原因だと気が付かない事もある。
(例:なかなか治らない、筋肉痛による”足の引きつれ”だと思っていたが坐骨神経痛症状だった。)
足の冷え、特に片側のみの足の冷えや、くるぶしの一部だけ冷える、いくら冷えを感じるところを温めても足の冷えが取れないという症状も、坐骨神経痛症状であると考えられる。

Ⅵ、坐骨神経痛の判断基準

坐骨神経痛の判断基準

「「私は坐骨神経痛です。」という人に、痛み方や、痛い場所を聞いてみると、全員の症状が一致しないことがある。
これは「坐骨神経痛」の解釈が人それぞれ違うためのようであるが、下半身に痛みやしびれ、違和感があるという部分は一致しているようである。
それを踏まえて、自覚する症状また判断基準としては以下の例に身に覚えがある場合、発症している恐れがあるのでチェックする。

  1. お尻から足にかけて激しく痛んだことがある
  2. 何年も前から時々背部に痛みを感じることがある
  3. 便秘に苦しんでいる
  4. 腰部に痛みが長期間続いたことがある
  5. 重い物を持ち上げると、おしりに痛みを感じたことがある
  6. 長時間立っていたり、座っていると腰部が痛くなる
  7. 長時間歩くと腰背部が痛くなる
  8. 咳やクシャミをすると腰背部がひどく激しく痛くなる
  9. 寝ている時、腰背部が痛くなり姿勢を変えずにはいられない
  10. 朝起きたとき腰背部がひどく痛くなる
  11. 1日の終わりに足がひどく痛くなる

また、上記以外の坐骨神経痛の判断基準となりそうな性質としては、坐骨神経痛の中で神経痛が出ている足は、疼痛性の跛行(はこう)といってひきずるような歩行をしたり、痛みのある側は血行が悪い為に冷えが生じて冷たくなることも挙げられる。痛みが長期間に及ぶと合併症として、お尻の筋肉が萎縮する人もいる。

坐骨神経痛股関節炎
  1. 坐骨神経の経路に沿って起こる
  2. 発作性間代性疼痛である
  3. ワレ―氏の圧痛点がある
  4. 発赤、腫脹、発熱がない
  5. 官能的疾患である
  1. 股関節部に発する持続的疼痛
  2. 炎症性疼痛である
  3. 圧痛点がない
  4. 発赤、腫脹、発熱がある
  5. 器質的疾患である

肩関節周囲炎について

Ⅰ、肩関節部に痛みを生ずる原因には次のようなものがあります。

  1. 肩関節の病変
    関節炎、変形性関節症、脱臼、骨折、捻挫など。
  2. 軟部組織の病変
    肩関節周囲炎:所謂五十肩、上腕二頭筋長頭腱腱鞘炎、腱板炎、滑液包炎、烏口突起炎、関節上腕靭帯障害。
    腱板損傷(断裂)など。
  3. 肩へ分布する神経の中枢側での圧迫。

Ⅱ、肩の痛みを訴える疾患

疾患原因症候
肩関節周囲炎棘上筋腱炎石灰沈着を伴った腱炎および滑液包炎、外転で判明
癒着性関節包炎狭義の肩関節周囲炎いわゆる五十肩
上腕二頭筋腱鞘炎ストレッチテスト・ヤーガソンテストで判明
腱板損傷多くは外傷で腱板テストで判明
肩手症候群反射性冠不全、心筋梗塞、片麻痺などに続発しておき、
上肢の痛み、循環障害、末梢性の腫脹、関節の拘縮、
皮膚の萎縮および骨粗鬆症がみられる
外傷性外傷後に同症状の出現してくるものをいう
外傷によるもの肩周辺の骨折多くは、長期間固定による肩関節拘縮を起こしやすい
肩周辺の関節脱臼多くは、長期間固定による肩関節拘縮を起こしやすい
関節リウマチ
感染性胃節炎結核など
肩への関連痛胆・肝疾患肩先に放散しやすい
:内臓性横隔膜疾患頚部・肩に放散しやすい
胃疾患肩甲間・肩上に多い
心疾患肩・頚および腕内側に放散しやすい
肩への関連痛頚部神経根への圧迫(神経点)スパーリングテスト・ジャクソンテストで判明
:神経性前斜角筋症候群アゾソンテスト・アレンテストで判明
颈肋症候群第7頚椎に付随した異常(頚助)が鎖骨下動脈、腕神経叢を
圧迫して上肢にシビレ・疼痛・循環障害を起こすもの
肋鎖症候群神経・血管束が第1肋骨と鎖骨で圧迫されて起きる。
兵隊姿勢によって圧迫が起こり、橈骨動脈の拍動が減弱するのが特徴

その他:脊髄腫瘍、過外転症候群、上肺溝腫瘍、小胸筋症候群、動脈硬化性閉塞、痛風など

Ⅲ、症状

40歳、或いは50歳を過ぎた頃に肩の痛みが発生すると、必ず下される診断が五十肩(四十肩)である。
しかしながら、五十肩と呼ばれる肩の損傷の症状は様々で、一概に同じ損傷と判断することは出来ない。肩関節周囲炎や癒着性関節包炎などが五十肩に相当する名称であるが、実際には石灰性腱炎、肩峰下インピンジメント症候群、腱板の裂傷、上腕二頭筋長頭腱炎などの損傷が五十肩として片付けられている。
整形外科では、急性期の局所の安静や鎮痛剤、皮ステロイド製抗炎症薬、ステロイドの注射などで症状を軽減させ、理学的処置で回復を観察する。
五十肩は、急性期には何もしなくても痛みが出る(自発痛)が、やがて徐々に動かす時に痛む(運動痛)だけとなる。
特に髪を整えたり、着替えの動作など、手を前方に上げたり、側方に上げたり、回したりする(上腕骨を軸として、その軸の周りの回旋運動)が制限される。
夜間や明け方に痛むことが多く、眠れなくなることがある。老化による肩関節周囲の炎症が原因となることが多い。
日頃肩をあまり使わない人に多発している。

五十肩(疼痛性肩関節制動症)

(診察)

加齢による退行性変化を基盤に過労、外傷、感冒や寒冷などを誘因にして肩関節周囲組織の炎症に伴い、疼痛と共に次第に癒着や筋拘縮が起こり、肩関節の運動制限と疼痛が著明に現れる。
50歳代に多発し、次いで60歳代で、40歳代にもみられる。

(鑑別)

  1. 腱板(特に棘上筋)の退行性変性・慢性炎症・石灰沈着。
  2. 肩峰下滑液包の炎症・変性・癒着。
  3. 上腕二頭筋長頭腱の炎症・変性・結節間溝との癒着。
  4. 関節包の炎症・癒着。
  5. 筋静止による肩関節周囲筋の拘縮。

(症候)

  1. 上腕二頭筋長頭腱腱鞘炎
    結節間溝部およびその上下の長頭腱部の自発痛(夜間痛)、圧痛があり、長頭腱に収縮あるいは伸張が起こるような運動時の疼痛がある。
  2. 腱板炎
    腱板部(大結節・小結節部)の自発痛、運動痛、圧痛が診られ、疼痛の為筋痙縮による運動制限が診られるが、拘縮が原因ではないので、鎮痛により速やかに改善される。傷害されるのは棘上筋腱が最も多い。
  3. 石灰沈着性腱板炎
    腱板内(特に棘上筋)に石灰沈着を来し、肩部に激痛を訴える。
    疼痛は身の置き所がないほどの自発痛。
    運動時に増強するため運動制限が著しく、局所の圧痛は顕著である。
    腫脹、熱感は三角筋に覆われて居るので顕著には現れない。
    検査法は、腱板炎と同じ。X線によって石灰沈着の存在が確認される。
    鍼灸の治療効果はそれほど期待出来ない。
    石灰除去に為の外科的処置を取らなければならないものが多い。
  4. 滑液包炎
    肩関節周辺に存在する多くの滑液包の中でも、烏口肩峰間アーチの下のあって腱板全体を包みこんでいる肩峰下滑液包が重要である。
    下に腱板があるので、腱板炎の症状と紛らわしいがあるが、次のような特徴がある。
    肩峰下の腫脹、発赤、熱感などの炎症症状。
    自発痛、運動痛、圧痛があるが、上肢の運動で、大・小結節を移動させても圧痛は移動しない。
  5. 烏口突起炎
    多くの靭帯と筋のターミナルになっている関係で、常に負荷が掛かり骨膜や靭帯、腱の炎症が起こり易い。
    烏口突起部の自発痛、運動痛(運動制限はない)、局所の圧痛。
  6. 関節上腕靭帯障害
    打撲や捻挫によって炎症を起こし、靱帯が伸びて関節の固定が悪くなったりする。
    運動痛:重い物を持ったり、持ち上げた時。投球動作時。
    前方関節裂隙部の圧痛。
    上肢前方挙上時の関節の動揺。
  7. 肩甲上神経絞扼障害
    肩甲切痕部において、上肩甲横靭帯との間隙で絞扼される。
    肩甲部から肩関節部におよぶ鈍痛(深部痛)、脱力感。
    安静時疼痛や夜間痛。
    肩部を前方に、また、上肢を内転あるいは内分回しした時の運動痛。
    長期に及ぶと棘上筋、棘下筋の萎縮。
    肩甲切痕部の圧迫、叩打による放散痛(チネル徴候)。

Ⅳ、疼痛・圧痛の部位と損傷筋ならびに疾患

①大結節部上部:棘上筋腱の損傷、棘上筋腱石灰沈着、肩峰下滑液嚢炎。
     (外転時の疼痛。外転運動障害)
 大結節後部:棘下筋・小円筋腱の損傷。
     (外転、外旋時疼痛増強。内分回し時牽引痛)
②小結節稜:大円筋、広背筋の腱の障害。
      (前面痛。外転、内旋時疼痛増強。外旋時牽引痛)
 小結節部:肩甲下筋腱の障害。
③結節間溝部:上腕二頭筋長頭腱炎。
④肩甲上腕関節腔部:関節上腕靱帯障害、関節炎。
⑤肩鎖関節部:肩鎖関節炎。
⑥胸鎖関節部:胸鎖関節炎。
⑦烏口突起:烏口突起炎。

眼疾患について

Ⅰ、はじめに

眼に関する訴えが特異的でない場合、訴えの原因を確定するため、眼の全ての部分と付属器についての完全な病歴ならびに検査が必要である。症状の発生部位と持続時間、痛みや分泌物、発赤の有無と性状、視力の変化について患者に尋ねる必要がある。

眼疾患には、目の疲れなどの軽度のものから失明に至る重度のものまで数多くの疾患があり、加齢に伴って発症する確率が高くなると言われている。
高齢者に多い眼の病気には、白内障と加齢性黄班変性(AMD)がある。
その他、加齢性の眼疾患以外には、糖尿病が原因で併発する糖尿病性網膜症がある。

Ⅱ、主な目の病気(眼の病気、眼障害、眼科疾患)

角膜・円錐角膜(えんすいかくまく)・蚕蝕性角膜潰瘍・角膜炎
・顆粒状角膜変性症・水疱性角膜症・翼状片
眼圧異常・高眼圧症・緑内障
眼位異常・斜視
眼球運動障害・外転神経麻痺・下斜筋過動症・上斜筋麻痺・Duane症候群
・動眼神経麻痺・Fisher症候群
眼瞼(がんけん)・眼瞼悪性腫瘍・眼瞼下垂・眼瞼痙攣・眼瞼内反
・霰粒腫(さんりゅうしゅ)・兎眼症・麦粒腫(ばくりゅうしゅ)
強膜・強膜炎・強膜軟化症
屈折異常・遠視・近視・乱視
結膜・悪性リンパ腫・瞼裂斑・結膜炎・結膜下出血・類皮腫
色覚異常・色盲視神経疾患・視神経炎・視神経低形成・レーベル病
硝子体(しょうしたい)・硝子体出血・星状硝子体症・第1次硝子体過形成遺残
・Terson症候群
視路・脳疾患・下垂体腫瘍・視束管骨折・多発性硬化症・Devic病・脳梗塞
水晶体・水晶体脱臼・水晶体偏位・白内障・落屑症候群
調節異常・老視
瞳孔異常・adie症候群・Horner症候群・外傷性散瞳
ぶどう膜・ぶどう膜炎
網膜・網膜剥離(もうまくはくり)・網膜分離症など
涙器疾患・ドライアイ
涙道疾患・鼻涙管閉塞・涙小管炎・涙嚢炎
全身疾患に伴うもの・SLE(網膜症)・甲状腺眼症・重症筋無力症

東洋医学的には

目は肝の外候と言われる。
一般に赤く腫れて痛む急性の眼疾は“肝火上昇”、慢性のかすみ目・めまい、あるいは両目の乾燥および鳥目などは“血が肝を養わず”の疾患に属する。
“霊枢・脈度編”=肝の気は目に通ず。
“素問・金匱真言論”=肝は目に開孔す。
“素問・五臓生成論”=肝は血を受けて能く視る。
『五輪八廓説』
肉輪 上・下眼瞼(眼胞)は脾に属し、脾は肌肉をつかさどる。
血輪内外眼角(二眥)は心に属し、心は血をつかさどる。
気輪 鞏膜(白睛・白仁)は肺に属し、肺は気をつかさどる。
風輪 角膜(鳥睛・黒睛)は肝に属し、肝は風木の臓である。
水輪 瞳孔(瞳人・瞳神)は腎に属し、腎は水の臓である。

Ⅲ 、鍼灸で扱う主な疾患

白内障(しろそこひ)

(診察)
先天性白内障:胎児期に母体が風疹ウイルスに感染。
後天性白内障:加齢による老人性白内障、外傷、糖尿病性。
白内障を主訴とする患者は希で、問診で目がかすむ、目の前を黒いものが飛ぶ(飛蚊症)などの視覚障害がある場合、白内障の存在を疑う必要がある。

(効果の良い症状)
老人性白内障の初期。

(効果の良くない症状)
先天性白内障や糖尿病性、外傷によるもの。

(治療)
5~7日に1度の継続治療で、症状の緩解や進行の停止が認められ、少なくとも半年間以上の継続治療をすることが望ましい。
:目医者殺しの灸といわれ、眼疾患すべてに効果のある経穴。
増明1(新穴):眉弓中央の内方約2分で眼窩上切痕部に取る。
眼窩上縁の沿い眼窩先端に向けて1~1.5寸刺入。
球後(奇穴):眼窩下縁外方、瞳子髎と承泣の中央。上方30°、内方30°の方向に毛様体神経節に向けて約1~1.3寸刺入。
中谷眼点A・Bの低周波置針療法
その他:天柱、風池、肩井、肝兪、腎兪、蠡溝。

近視(近眼)

(診察)
先天性白内障:胎児期に母体が風疹ウイルスに感染。
後天性白内障:加齢による老人性白内障、外傷、糖尿病性。
白内障を主訴とする患者は希で、問診で目がかすむ、目の前を黒いものが飛ぶ(飛蚊症)などの視覚障害がある場合、白内障の存在を疑う必要がある。

(効果の良い症状)
老人性白内障の初期。

(効果の良くない症状)
先天性白内障や糖尿病性、外傷によるもの。

(治療)
5~7日に1度の継続治療で、症状の緩解や進行の停止が認められ、少なくとも半年間以上の継続治療をすることが望ましい。
和髎:目医者殺しの灸といわれ、眼疾患すべてに効果のある経穴。
増明1(新穴):眉弓中央の内方約2分で眼窩上切痕部に取る。
眼窩上縁の沿い眼窩先端に向けて1~1.5寸刺入。
球後(奇穴):眼窩下縁外方、瞳子髎と承泣の中央。上方30°、内方30°の方向に毛様体神経節に向けて約1~1.3寸刺入。
中谷眼点A・Bの低周波置針療法
その他:天柱、風池、肩井、肝兪、腎兪、蠡溝。

麦粒腫

眼瞼炎における限局性の急性化膿性炎症(めいぼ、めばちこ、ものもらい)、化膿菌による腱毛腺、瞼板腺の急性化膿性炎症

(診察)
眼瞼縁(睫毛腺、瞼板腺)に於けるブドウ球菌などの化膿菌による限局性の急性化膿性炎症。
眼瞼の発赤、腫張、自発痛、眼球結膜充血・浮腫を来し、3~4日後に自潰排膿し治癒に向かう。

(効果の良い症状)
早期か極期を過ぎてから最適。
痛みについては全期間を通じて有効。

(効果の良くない症状)
炎症と腫張が高度の場合。

(治療)
鍼灸治療と並行して、初期では炎症を抑えるため冷却し、極期を過ぎている場合には自潰排膿を促進するため暖める事もある。
眼瞼は脾・胃経が司り、皮毛は肺経が司るといわれ、脾経、大腸経の要穴が選穴される。
地機、合谷または曲池(多壮灸):鎮痛・消炎作用。
二間(沢田流):まず5壮し、まだ痛む様であれば更に5壮。
耳尖穴:耳を縦に折った先端に5壮。(逆睫にも有効)
天柱、風池:後頚部の血行を良くし、眼部の痛みを緩和。
肩背部の諸穴にEAP
眼周囲の諸穴にEAP

眼精疲労

(診察)
目を使う仕事をすると容易に疲れ、痛み、かすみ、羞明、充血、流涙などが起こり、全身症状として頭痛、悪心、肩凝り等を起こす状態を言う。
調節性(老眼・近視)、筋性(斜視・輻輳不全)、症候性、不等像性(乱視)、神経性眼精疲労に分類される。

(効果の良い症状)
神経性眼精疲労や軽度の老眼・近視による眼精疲労。

(効果の良くない症状)
強度の老眼・近視、輻輳不全、乱視など。

(治療)
中谷A・B点の低周波置針療法。
眼窩内の血流・筋疲労改善:眼窩内刺針(球後・増明1)。
頸・肩の懲りを取る:天柱、風池、肩井。
目の充血を取り、痛みを和らげる:耳針限点の瀉血。
目の痛みを和らげ、明らかにする:睛眼。
肝兪:肝の機能を調整する。肝は目を司る。

色覚異常

(診察)
視細胞の錐状体に異常が生じ、色彩感覚が失われる色光感受性の障害。
母親から伝わる伴性遺伝である。
赤緑色盲と青黄色盲に大別出来る。
軽度の赤緑色盲や赤緑色弱は、鍼灸治療により色覚の向上する可能性があり、色盲表検査では正常となる事も希ではない。

(治療)
色盲治療の新分野を開拓した中谷博士の色盲治療8点を中心に行う。

  • A点:外眥と耳輪脚付け根とを結んだ線上の前3/1。
  • B点:上記の線上の後3/1。
  • C点:F650巨髎穴。
  • D点:F58光明穴。

以上の良導点に20分間置針し、施鍼時、10分後、抜針時の3回、EAP7秒通電を行う。
難治の者に対しては全良導絡調整療法を行う。
追加治療点:百会、天柱、風池、和髎、四白、睛明、絲竹空、瞳子髎、翳風、翳明などから選穴する。

◎応用

  • 赤色盲・色弱:曲泉、侠谿に補針。
  • 緑色盲・色弱:足臨泣、大敦に補針。
  • 肝腎陰虚証:太谿、復溜、肝兪、腎兪補針。

ドライアイ

ドライアイ(角膜乾燥症、乾性角結膜炎)とは、様々な要因により涙や粘膜に起こる慢性疾患のことである。
ある調査によれば、オフィスワーカーの約3割、またコンタクトレンズ使用者の約4割がドライアイだと言われている。
涙は、悲しい時や痛い時に出るだけでなく、常に少しずつ分泌され、眼の表面(角膜・結膜の表面)を常に薄い涙の膜でおおって保護し、栄養を与えている。
涙の層は、角・結膜側から順に粘液層、水層、油層の3層構造をとっている。
この涙が減って、眼の表面が乾いて、いろいろな症状を起こしてくる状態をドライアイといわれている。
基本的には、乾性角結膜炎や涙液減少症というのも同じことで、ドライアイという用語は、非常に軽度の人や涙の質的異常の人も含めて広く使用されている。
とえば、傷がなくても眼が乾くという症状があればドライアイだし、涙の水分量は正常なのに短時間で蒸発してしまう場合(油層の形成が悪い場合)もドライアイと言う。
それに対して、涙液減少症は涙の量が実際に減少している場合に、乾性角結膜炎はそれに加えて何らかの傷がある場合に限定されて使用される用語である。しかし、最近はすべてドライアイで総称するようになってきている。

(症状)

目の乾燥、目に異物感、目の疲れ、充血、光がまぶしい、目がかすむ、眼痛、視力低下眼が乾く、ころつくというような症状が一般的であるが、軽いタイプのドライアイでは充血する、眼が疲れるといった症状の場合もある。重症の場合は、視力も低下してきて、ころつきをとおり越して眼痛を訴えることもある。
ドライアイは左右差はもちろんあるが、通常は両眼性である。

高血圧について

Ⅰ、概要

世界保健機関WHOの基準(1978)によると、最大血圧が160mmHg以上、あるいは最小血圧が95mmHg以上のいずれか一方、あるいは両方が持続する場合を言う。本態性、腎性、内分泌性に分けられる。
高血圧(Hypertension)とは、血圧が正常範囲を超えて高く維持されている状態である。
高血圧自体の自覚症状は何もないことが多いが、虚血性心疾患、脳卒中、腎不全などの発症原因となるので臨床的には重大な状態である。
生活習慣病のひとつとされる。
高血圧というのは中年以降になってその状態になってしまってから対処する、といった発想で対応してよいものではなく、若いうちから生活習慣を改め、予防することのほうがはるかに大切で、それこそがもっとも有効な対策となる。
一般的に、若いうちから塩分を控えた食生活にすることや、たっぷり野菜をとることや、喫煙をしないことや、適度に運動を実行することが鍵となる。本人の努力も必要なことは言うまでもないが、親や家族や地域の連携的な対策も鍵となる。
米国では1995年に、成人全体の24%には高血圧があり、そのうちの53%の人は降圧剤を服用していたという。
日本には4000万人の高血圧の人がいると推定されている(日本高血圧学会)。
肥満、高脂血症、糖尿病との合併は「死の四重奏」「syndrome X」「インスリン抵抗性症候群」などと称されていた。
これらは現在メタボリックシンドロームと呼ばれている。

Ⅱ、定義

日本高血圧学会では高血圧の基準を以下のように定めている。

成人における血圧値の分類(mmHg)
分類収縮期血圧拡張期血圧
至適血圧<120かつ<80
正常血圧<130かつ<85
正常高値血圧130~139または85~89
Ⅰ度(軽症)高血圧140~159または90~99
Ⅱ度(中等症)高血圧160~179または100~109
Ⅲ度(重症)高血圧≧180または≧110
収縮期高血圧≧140かつ<90

すなわち、収縮期血圧が140mmHg以上または拡張期血圧が90以上に保たれた状態が高血圧であるとされている。
しかし、近年の研究では血圧は高ければ高いだけ合併症のリスクが高まるため、収縮期血圧で120未満が生体の血管にとって負担が少ない血圧レベルとされている。
ここで注意すべきは、血圧が高い状態が持続することが問題となるのであり、運動時や緊張した場合などの一過性の高血圧についての言及ではないということである。
高血圧の診断基準は数回の測定の平均値を対象としている。運動や精神的な興奮で一過性に血圧が上がるのは生理的な反応であり、これは高血圧の概念とはまた違うものである。
血圧は1日の中でも変動している。そのため、計測する時間帯には正常値の基準を満たしているものの、その他のほとんどの時間帯には高血圧となっている場合がある。これを仮面高血圧と呼ぶ。
また、降圧剤が処方されている場合でも、その効果が切れている時間帯では安全域を外れている場合もある。
この点にも留意する必要がある。逆に、普段は正常血圧なのに診察室で医師が測定すると血圧が上昇して、高血圧と診断されてしまう場合もあり、“白衣高血圧”と呼ばれている。
糖尿病患者では起立性低血圧の症例が有るため、座位だけでなく臥位・立位でも測定する。
上腕の血圧測定結果で左右の血圧差が生じることがある。血圧差は、上腕動脈或いは鎖骨下動脈の病変に起因すると考えられ、差が10mmHg以上の患者は心血管疾患による死亡リスクが有意に高い。
また、家庭で測定を行う場合は高い側の腕で測定を行うことが推奨されている。
日本高血圧学会によれば「家庭血圧測定条件設定の指針」で次のように定めている。
測定部位:上腕が推奨。手首、指血圧計の使用は避ける。
朝の場合は、起床後1時間以内、排尿後、服薬前、朝食前の安静時、座位1~2分後に測定。
夜の場合は就床前の安静時、座位1~2分後に測定。
朝夜の、任意の期間の平均値と標準偏差によって評価。
家庭血圧は135/85mmHg以上は治療対象、125/75mmHg未満を正常血圧。

Ⅲ、原因

現在、原因が特定できている場合とそうでない場合で大きく二分類して、原因がよくわからない「本態性高血圧症」と、特定の原因が明らかになっている「二次性高血圧」に分類するということが行われている。
現在の医学では、「本態性高血圧症」のほうの割合がかなり多い。つまり現在の医学のレベルでは高血圧に関しては原因があまりよく判っていない場合のほうが多い。
ただしこの二分類は、あまり固定的に理解するのはあまり正しくなく、医師が仕事を進めるうえでの便宜的なものだと理解したほうがよい。
「二次性高血圧」(原因が特定されているもの)に関しては、いろいろな場合がある。 本態性高血圧の原因については、原因のよく判らないものを「本態性高血圧症」と呼ぶことにしているので、良く判っていないとされているわけであるが、「原因は単一ではなく、両親から受け継いだ遺伝的素因が、生まれてから成長し、高齢化するまでの食事、ストレスなどの様々な環境因子によって修飾されて高血圧が発生する」という説(モザイク説)がある。

動脈硬化症による脳内酸欠:一般的に病院で「高血圧」と診断される大部分の原因は、上行大動脈の動脈硬化症による脳内酸欠を防ぐための血圧上昇である。
この動脈硬化症の原因をさらに遡ると食生活や喫煙や運動不足である場合が多い。
塩分のとりすぎ:食塩の過剰摂取は、血圧の上昇を招き、心臓病や脳卒中のリスクを高める。
アフリカのマサイ族や南太平洋のフィジーの人々など未開の地では、塩分摂取が少ないので、高血圧の人はほとんど見当たらない。
動物に食塩を多く含むエサを与えると高血圧になる。
日本人の食塩摂取量は、欧米人より多い。日本人の高血圧の発生には食塩過剰摂取の関与が強いとされる。
厚生労働省の栄養所要量によれば、食塩の必要量は1日1.5gであるが、日本人の食塩摂取量は1日平均11.2gである。

海と異なって陸上には食塩の摂取源が無いが、汗などで失うから、陸上動物は慢性的な食塩欠乏状態にある。陸上動物の体には、食物に含まれる食塩を大切に保持する仕組みがある。また、食塩を含む食物を美味しいと感じるように進化している。
それで、多くの食塩を混入させた加工食品を好ましいと感じて、なかなか排除できないのである。
世界保健機構WHOは、高血圧のある人も無い人も、食塩摂取を5g/日以下にすることを強く推奨している。
また、米国国立健康研究所NIHは、51歳以上の人について、高血圧のある人も無い人も、食塩摂取を3.8g/日以下にすることを推奨している。
日本の高血圧治療ガイドライン2014では、高血圧のある人に1日6g未満という減塩を推奨している。
日本人の食塩嗜好は野菜の漬け物、梅干し、魚の塩漬けなど日本独自の食生活と関連がある。食塩摂取量に関して、静岡県浜松市遠州病院による2008年7月から2012年12月までに合計35,500人(男性22,749人平均年齢56.3歳)を対象とした調査では、男性12.4g、女性8.4gで、ガイドラインの1日6.0g以下の推奨目標値を達成できているのはわずか3%だった。
また、食塩(塩化ナトリウム)だけでなく、重曹(炭酸水素ナトリウム)、アミノ酸など(グルタミン酸ナトリウム)などを含む食品および胃腸薬の摂取に対しても注意が必要である。
食塩の過剰摂取が高血圧の大きなリスクとなるのは、身体の電解質調節システムに原因がある。
細胞外液中でナトリウムをはじめとする電解質の濃度は厳密に保たれており、この調節には腎臓が大きな役割を果たしている。
すなわち、濃度が正常より高いと飲水行動が促され、腎では水分の再吸収が促進される。反対に、濃度が低い場合は腎で水分の排泄が進むことになる。
その結果として、血中のナトリウムが過剰の場合は、濃度を一定に保つため水分量もそれに相関して保持され、全体として細胞外液量が過剰(ハイパーボレミア:hypervolemia)となる。腎のナトリウム排泄能(通常、ナトリウム0.15~0.3mol/日、食塩9~18g/日に相当)を超えて塩分を摂取している場合、上記のメカニズムで体液量が増加して高血圧を来す。ナトリウム過剰で高血圧をきたしやすい遺伝素因も存在することが確認されている。

K(カリウム)、Mg(マグネシウム)、Ca(カルシウム)は、ナトリウムに対して拮抗的に働く。
それらの元素を多く含む野菜、果物、牛乳などを充分に摂取すると、体内の過剰なナトリウムは、体外へ排泄される。(ダッシュダイエット参照)。
肥満、飲酒なども高血圧の発症に関与するとされている。(これも概して食生活に起因するものである)。
ストレスも高血圧の発症に関与するとされている。
血圧反射機能の障害なども高血圧の発症に関与するとされている。
両親の一方あるいは両方が高血圧であると高血圧を発症しやすい、というデータがあるが、遺伝性についての要因分析に関しては慎重になる必要がある。
砂糖が高血圧の原因の一つであるという説がある。
仮説の一つによれば、砂糖のうち特に果糖が、インスリン抵抗性をもたらし、血糖値を上げ、糖化反応により動脈硬化を起こし、高血圧をもたらす。
実際、米国国立健康研究所NIHによる高血圧食であるダッシュダイエットでは、砂糖摂取を1日に約15g以下に制限するよう勧めている。

脂肪細胞が肥大化すると、血圧に関連して次のことが起こる。

1)過剰に分泌されたレプチンが交感神経の活動を亢進させ、血管を収縮させること等により、血圧を上させる。
2)レニン-アンジオテンシン系の活性化
アンジオテンシノーゲンは肝臓で産生されるが、肥大化脂肪細胞からも産生、分泌される。アンジオテンシノーゲンから生成されたアンジオテンシンⅡは、副腎皮質球状帯に作用してナトリウムの再吸収を促進するアルドステロンの分泌を促進し体内に水分を貯留する。
また、脳下垂体に作用し利尿を抑えるホルモンである抗利尿ホルモンであるバソプレッシン(ADH)の分泌を促進し同じく体内に水分を貯留する。これらのことにより高血圧を招く。肥満患者において高血圧症が多いのはこのためである。
肥満によるインスリン抵抗性は高インスリン血症を来す。高インスリン血症は、腎尿細管へ直接作用してナトリウム貯留を引き起こし、これが水分を貯留し結果として血糖値を下げる作用につながるが、水分の貯留により高血圧を発症させることとなる。

Ⅳ、診断

血圧は変動しやすいため、高血圧の診断は少なくとも2回以上の異なる機会における血圧測定値に基づいて行われるべきである。
最近は家庭血圧計が普及しているが、家庭で自分自身で測定した血圧値の方が、診察室で医師や看護師によって測定した血圧値よりも将来の脳卒中や心筋梗塞の予測に有用であるとする疫学調査結果が相次いで報告されている。診察室での血圧測定では、白衣高血圧(医師による測定では本来の血圧よりも高くなる現象)や仮面高血圧(普段は高血圧なのに、診察室では正常血圧となる現象)が生じるため、必ずしも本来の血圧値を反映していないという考え方が普及している。家庭での正常血圧値は診察室での血圧値よりもやや低いために、家庭血圧では135/85mmHg以上を高血圧とする。
家庭では朝食前に2回血圧を測定することが望ましい。
心筋梗塞や脳卒中の発症は朝起床後に多発することから、早朝の高血圧管理が重要である(早朝高血圧)。
脳卒中や心筋梗塞の発症には高血圧のみならず、喫煙、高脂血症、糖尿病、肥満などの他の危険因子も関与するために、危険因子や合併症も考慮した高血圧の層別化によって将来の脳卒中、心筋梗塞の危険度の予測能が高まる。
動脈硬化の診断や、腎機能、血圧反射機能などの自律神経機能等の診断も病態の把握に重要であり、動脈硬化の定量診断には脈波伝播速度計測なども行われている。血圧反射機能診断のためには、血圧変化に対する心拍反応や、動脈の血圧反射機能を診断する方法論も提案されている。
精密な病態の診断が最適な治療には不可欠である。

  • 症候性高血圧(腎性・内分泌性・中枢性・心臓血管性・神経性)。
  • 本態性高血圧症(原因不明)。通常、高血圧といえば本症をさす。
  • 遺伝的素因。多量の食塩の摂取や飲酒、喫煙、心身過労などが誘因。
  • 徐々に発病し、自覚症状の見られないものも多い。
  • 長期間高血圧状態が持続、腎・脳血管障害→それぞれの症状を生じる。
  • 自覚症状:頭痛、不眠、耳鳴、眩暈、易疲労性、動悸、息切れ、肩こりなど。
  • 最高血圧だけが高い:大動脈硬化症(動脈硬化性高血圧症→老人、大動脈閉 鎖不全・バセドウ病→心拍出量増大)、本態性高血圧症の初期。
  • 最高、最低ともに高い:①本態性高血圧症の固定期。②症候性高血圧症。
  • 血管圧迫なしで拍動音:大動脈弁閉鎖不全、甲状腺機能亢進症、虚弱体質。
症候性高血圧 1、腎性
・腎前性(腎血管性)→腎動脈狭窄
・腎実質性→急性・慢性糸球体腎炎、腎盂腎炎、妊娠腎、腎結核など
・腎後性→尿路結石、尿道圧迫など
2、内分泌性
・副腎髓質性→褐色細胞腫
・副腎皮質性→アルドステロン症、巨人症、クッシング症候群
・甲状腺→甲状腺機能亢進症
3、心・血管性→大動脈硬化症、心ブロック、大動脈縮窄症など
4、神経性→脳腫瘍、脳圧亢進、脳幹障害
5、その他
本態性高血圧原因不明

不眠症(睡眠障害)について

Ⅰ、定義

眠ること、すなわち、周期的に繰り返す、意識を喪失する生理的な状態のことを言う。睡眠の目的は、心身の休息、記憶の再構成など高次脳機能にも深く関わっているとされる。下垂体前葉は、睡眠中に2時間から3時間の間隔で成長ホルモンを分泌し、放出間隔は睡眠によって変化しないが、放出量は多くなる。したがって、子供の成長や創傷治癒、肌の新陳代謝は睡眠時に特に促進される。その他、免疫力の向上やストレスの除去などがあるが、完全に解明されていない部分も多い。

Ⅱ、睡眠に関わる神経伝達物質

覚醒を維持する神経伝達物質には、ノルアドレナリン、セロトニン、ヒスタミン、アセチルコリン、オレキシンなどがあるが、睡眠中はこれらの神経伝達物質を産生する神経細胞が抑制されている。その抑制には腹背側視索前野に存在するGABA作動精神系が関与しているとされる。アセチルコリン作動性神経の一部はレム睡眠の生成にも関与している。

Ⅲ、睡眠の段階

第1段階:覚醒している段階と比較して、身体活動の約50%が減退している。この段階にある間、目は閉じられているが、まだ眠ってはいないと感じることもある。この段階はだいたい5分から10分間くらい持続している。

第2段階:睡眠の深さの波形が断続的に上下する、軽い睡眠の段階。これらの波形は、筋肉が「正常に緊張している期間」に「弛緩している期間」が混在している状態になっていることを示している。心臓の鼓動はゆっくりになり、体温は低下する。この時点で、身体は熟睡する準備に入る。

第3および第4段階:このふたつの段階は熟睡している段階。第4段階の方が、より深い睡眠に入っている。これらの段階は”徐波(Slow Wave)睡眠”として知られており、特に第4段階の間は筋電図の記録に、熟睡状態を示すリズミカルな連続パターンの、振幅の大きい波形が現れる。

ノンレム睡眠:第1段階から第4段階までをノンレム睡眠と言う。ノンレム睡眠の次の段階が“レム睡眠”の段階であり、その段階に達する前に第2段階と第3段階が逆の順序で現れる。従って正常な睡眠周期は以下のようなパターンになる:第1段階→第2段階→第3段階→第4段階→第3段階→第2段階→第5段階(レム睡眠)
通常、睡眠に入って約90分後にレム睡眠の段階に入る。

Ⅳ、睡眠障害

a、定義

睡眠障害(英:Sleep disorder)とは、入眠、睡眠に何らかの異常のある状態を指す。生理的な睡眠が質的あるいは量的に障害されるもので、(1)睡眠の開始と維持の障害(不眠症)、(2)睡眠過剰(過眠症)、(3)睡眠覚醒スケジュール(概日(がいじつ)リズム)の障害、(4)睡眠随伴症(パラソムニア)の四つに分けられてきたが、最近の国際分類(ICSD。1990年にアメリカ睡眠障害連合会が中心となり作成)では(1)睡眠異常症(不眠、過眠、概日リズム性障害を含む)、(2)睡眠随伴症、(3)内科的・精神科的障害に関連する睡眠障(精神疾患、神経疾患、内科的疾患に伴うもの)、(4)提案、検討中の睡眠障害に分類されている。

b、不眠症

不眠(睡眠の開始および持続の障害)があり、自覚的な苦痛や社会的、職業的障害が生じている状態をいい、精神疾患、神経疾患、内科的疾患によるもの、精神的なストレスによるもの、神経質な性格によるもの、老人性のものなどがある。頑固な不眠を訴えるが、睡眠の質・量ともにほとんど異常のないものもあるので、診断の際には睡眠の実態をよく調べる必要がある。

①原因と疾患
ⅰ、生理的原因=興奮、苦悩、恐怖、疲労は不眠を起こす。寝室の高音・寒冷も原因となる。また周囲の喧騒、光線なども不眠を来たす。
ⅱ、飲料、薬品による原因=コーヒー、茶などのカフェインを含有する飲料を飲んだ場合に起こる。
ⅲ、中毒=鉛、アルコール、覚せい剤などの中毒も不眠を来たす。
ⅳ、神経、精神的疾患=神経症、うつ病、分裂病(初期)、脳動脈硬化症などにおいて不眠を訴える。
ⅴ、消化器疾患=食物の胃内停滞、嘔気、嘔吐、下痢、鼓腸などが不眠の原因となる。
ⅵ、呼吸器疾患=鼻閉塞、咳嗽も不眠の原因となるが、気管支喘息における起座呼吸の場合にはほとんど睡眠が不可能となる。
ⅶ、循環器・血液疾患=心不全による起座呼吸、不整脈、狭心症などで不眠が起こる。また高血圧症、低血圧症、貧血なども脳の血液循環障害を起こすために不眠を来たす。
ⅷ、泌尿器疾患=排尿困難、多尿、頻尿などは不眠を招く。
ⅸ、内分泌疾患=甲状腺機能充進症はしばしば不眠を来たす。糖尿病、尿崩症では口渇、多尿によって睡眠が妨げられる。
ⅹ、運動器疾患=関節リウマチ、筋肉リウマチなどは疼痛の為に不眠を来たす。
ⅺ、その他=環境因性(騒音・気温・採光など)、身体因性(痛み、かゆみ、発熱など)、老人性(多相性睡眠型)、本態性(原因不明)など。

②分類
夜間中々入眠出来ず寝つくのに普段より2時間以上かかる入眠障害、一旦寝ついても夜中に目が醒め易く2回以上目が醒める中間覚醒、朝起きたときにぐっすり眠った感じの得られない熟眠障害、朝普段よりも2時間以上早く目が醒めてしまう早朝覚醒などの訴えのどれかがあること。そしてこの様な不眠の訴えがしばしば見られ(週2回以上)、かつ少なくとも1ヵ月間は持続すること。不眠のため自らが苦痛を感じるか、社会生活または職業的機能が妨げられること。などの全てを満たすことが必要と報告されている。
なお精神的なストレスや身体的苦痛のため一時的に夜間良く眠れない状態は、生理学的反応としての不眠ではありますが不眠症とは言えない。
疲れているはずなのにベッドに入ってもなかなか眠ることができない、といった経験は多くの人にあると思うが、あまりにも眠れないため普段の生活に慢性的な影響が出てしまうこともある。そうした不眠症の原因が身体面や心理面などから10個の症状に分類されている。

1.適応性不眠
ストレスからくる睡眠障害で、ストレスが解消されたり、ストレスに適応すると治る。ストレスはネガティブなものに限らず、楽しいことなどで興奮した状態で眠れなくなることもある。

2.幼年期の行動からくる不眠
親や保護者が子どもをキッチリと寝かせないことで起こる睡眠障害。決まった時間に子どもを寝かせると正常な睡眠をとれるようになるが、就寝時刻があやふやだと夜に何度も目が覚めるようになってしまう。

3.特発性疾患による不眠
幼年期に始まり成年期まで続く睡眠障害。体内のバランスが崩れて、覚醒機構が強く働きすぎたり、逆に睡眠機構がうまく働いていないことなどが理由と思われているが、ハッキリした原因は不明である。

4.薬物による不眠
薬物治療の副作用やカフェインの摂取、アルコール系溶剤の使用などで起こる睡眠障害。使用中だけでなく使用を止めた時にも発生する可能性がある。

5.健康障害による不眠
他の病気による痛みなどが理由で、眠るのが困難になったり、夜に何度も目を覚ましてしまう症状。

6.精神障害による不眠
精神衛生の悪化の兆候として現れる睡眠障害。不眠のレベルがそのまま精神状態に直結している。

7.身体的原因に関係しない不眠
根本的なメンタル・ヘルス障害や、心理的要因、分割睡眠による不眠。不眠症を持った人が別のタイプの不眠症の基準を満たさないときに分類されるそうである。

8.精神的原因に関係しない不眠
内科疾患や健康状態によって起こるが特定の原因がわからない不眠。明確な原因を発見するには更なるテストが必要。

9.逆説的不眠
客観的な睡眠障害の形跡なしで現れる不眠。眠っている状態なのに本人は目覚めていたと感じるもので、たっぷり寝ていても自分の睡眠時間を過小評価したりしている。

10.精神心理学的な不眠
睡眠が取れていないという過度の不安からなる不眠。突然発症した後、不安で眠れない日々が積み重なることで、年月を経てゆっくりと症状が悪化。家以外だと普通に眠れる場合もあるという。

不眠入眠障害
熟眠障害
早期覚醒
過不眠ナルコレプシーなど
錯眠夜尿・夢遊・夜驚症など

c、不眠症の型

1)入眠障害
就寝後なかなか眠れない状態をいう。入眠障害はかなり多いもので、感情的な興奮、緊張などが原因となる。なお神経病的傾向があるものでは、この型の不眠が起こり易い。

2)熟眠障害
入眠できるが、睡眠が浅く、熟眠できない。周囲の物事によって睡眠が容易に中断されるもので、脳動脈硬化症とか、うつ病に見られる。

3)早期覚醒
睡眠時間が短く、早期に覚醒し、その後容易に眠ることができないもので、高年者にしばしば見られるが、この場合は起床時は爽快に感じる。これに反してうつ病では、熟睡感がなく不快に感じる。

4)途中覚醒
睡眠の途中で何度も覚醒するタイプである。目ざとい人では熟睡していても、小さな物音で容易に覚醒する。年齢的には成人以下に少なく、老人の場合には排尿という生理的な問題もある。

5)覚醒障害
目覚めの悪いタイプである。強制的な覚醒手段によって、寝ぼけたリ、不機嫌になったりする。なお夜早く眠りにつき、早朝に熟眠し、翌朝目覚めの良い、いわゆる早寝早起の睡眠経過を経る(これは睡眠障害ではない)

6)夢の障害
最も訴えの多いものに多夢と悪夢がある。夢の大部分は筋道がなく、その後に深睡眠を繰り返すので、睡眠の経過中に忘れ去られてしまうのである。ただし、夢が非常に刺激的で印象的な内容のものであったりすると覚醒後も記憶に残る。

7)ナルコレプシー
ナルコレプシーのもっとも基本的な症状は日中反復する居眠り(daytime sleep episodes)がほとんど毎日、何年間にもわたって続くことを言う。通常10~20分位眠ると目が覚めてさっぱりするが、2~3時間もすると再び眠気が襲ってくる。このとき意識的に体を動かしたりすることによりある程度眠気を抑える事は可能であるが、毎日続く眠気に打ち克つことは困難になる。このほか普通の人であれば緊張してまず居眠りなどしない場面、例えば試験中とか商談中等でも急に強い眠気が起こり数分間程度眠り込んでしまうことがあり、これを睡眠発作(sleep attacks)と言う。
次に大切な基本症状は情動脱力発作(cataplexy)である。大笑いしたり、得意になったり、興奮して怒ったりするなど、主に強い陽性感情の動きをきっかけにして、全身あるいは膝、腰、頚、顎、頬、眼瞼などの姿勢筋の力が両側性に突然脱けてしまう発作である。通常脱力は瞬間的だが、数分間にわたり床に崩折れることもある。この間意識は清明に保たれ、周囲の状況はよく記憶されて、呼吸困難は起こらない。てんかんの発作とは全く別のものになる。時には数分から30分間位も脱力状態が持続することがあり、脱力重積状態(status cataplecticus)と呼ばれている。

Ⅴ、診断

不眠症の診断は、問診が重要となりますので、家族などに自分の睡眠時の様子などを聞き、受診の準備をしておく。また、就寝、起床時間を記した睡眠日誌をつけておくことも診断の役に立つ。

どんなふうに眠れないか寝つきが悪い・眠りが浅い・よく目が覚める・朝早く目が覚める・金縛りを起こす・寝ようとするとふくらはぎや足先がむずむずする など
寝ているときの様子いびきをかく・歯ぎしりをしている
寝言を言う・寝相が悪い など
起きているときの様子だるくてやる気がしない・つい居眠りしてしまう
不眠のことを考えてしまう・昼夜逆転した生活をしている
コーヒーやお茶などをよく飲む など

*経過および予後
原因により一定でないが予後はよい。

気管支炎・喘息について

Ⅰ、概要

気管支炎(英:Bronchitis)は、呼吸器疾患の一つで気管支の炎症を指す。急性と慢性に区分される。また、別の区分では慢性気管支炎は閉塞性肺疾患にも分類される(気道の狭窄症状、肺の過膨張、喘鳴、呼気延長、1秒率の低下、残気量の増加等)。自身の喫煙や周りの人間による受動喫煙の健康被害により、症状が悪化したり慢性化したりする悪影響がある。

咳嗽の種類と特徴
症状としてのせきは非特異的のもので、その強さは基礎疾患の種類と重症度を表さないが、咳の種類と特徴は重要な診断の
助けとなる
乾性咳嗽からせき、喀痰分泌のほとんどないか、少ないもの
咽頭カタル、気管カタル、胸膜炎、初期結核、鼻咽頭カタル、心臓疾患、喫煙家のせき、分泌物の喀出の必要がないので、生体にとって有益な点はまったくない
湿性咳嗽喀痰分泌の多いもの。痰を伴う咳、下気道の炎症によることが多いが、上気道炎や気道異物など
も、はじめは乾性咳嗽でも早晩、痰を伴うようになる急性・慢性気管支炎、肺炎、肺結核、肺腫瘍、肺壊疽
粘液、分泌物、異物の喀出に役立つが、逆に気管支先端深く吹き込むことがあり、肺腫瘍の破裂、自然気胸、血栓剥離、出血、肺結核、安静安眠の阻害などもある
軽咳いわゆる軽い咳。せき発作の軽度、短時間のもの
上気道の慢性カタル、初期肺結核
無声咳嗽せき発作に音を伴わない。ヒステリー、声帯麻痺
百日咳発作痙攣性のせき発作は、窒息状態を起こし、強いチアノーゼを呈し意識を失うことがある。成人にも
起こることがあるが、一般に軽い
犬の吠え声のような咳
咽頭ジフテリア、喉頭疾患、百日咳、ヒステリー
ウイルス性感冒の激しいとき、胸骨裏面の疼痛を伴って現われ、気管支炎の存在を意味することが多い
犬吠様咳嗽犬の吠え声のような咳
咽頭ジフテリア、喉頭疾患、百日咳、ヒステリー
ウイルス性感冒の激しいとき、胸骨裏面の疼痛を伴って現われ、気管支炎の存在を意味することが多い
痙攣性咳嗽咳嗽発作が連続しておこるせき
百日咳、インフルエンザ、扁桃肥大、喉頭疾患、気管支炎、ヒステリー
就寝後のせき肺結核に多い。懸蓋垂の長すぎる場合も起きる
小児の場合、寄生虫によることもある
小児の急にせきが起きた場合、異物の嚥下に注意
非特異性の感冒や急性気管支炎では、1週間くらいで治癒はずであるが、もし咳が1週間以上も続くときは別の疾患を考え、胸部レントゲン、肺機能、気道の造影などが必要とされる
他に認めるべき原因がないのに刺激性のせきが続く場合、40歳以上の男性なら血痰がなくても肺癌に注意する短く自分でおさえるようなせきは、胸膜炎のときの特徴とされる

Ⅱ、気管支喘息

呼吸困難の病因A.安静時呼吸困難(呼吸困難が安静時にみられるもの)
①急性機械的あるいは感染症→肺炎・肺梗塞・気胸・胸水など
②発作性→気管支喘息・心臓喘息
③心因性→過剰喚気症候群など
④代謝性→尿毒症・糖尿病など
⑤チェーン・ストークス呼吸→脳血管障害など
B.運動時呼吸困難(運動時にみられるもの)
①単純な過剰喚起→貧血・妊娠・肥満など
②早期の心疾患→僧帽弁狭窄など
③慢性気管支炎、ぜんそく
④肺線維症など

更年期障害について

Ⅰ、定義

更年期とは、女性の性成熟期から初老期への移行期をいう。
更年期の更の字は・・改まる・変わる・つぐ・経る・通り過ぎる・新しいの意を持ち、女性一生の周期の中でのことであり一時期を現わし、また動きを感じさせる言葉である。

Ⅱ、更年期障害とは

ホルモンのアンバランスにより起こりくる更年期に伴って自律神経系に異常が起こり、諸種の多彩な心や体の違和・失調を現わし、それを自覚し、辛く感じるものを更年期障害という。

1)更年期は卵巣機能の低下
外面的には・・・月経の乱れ(月経過多・過少、稀発月経、頻発月経)、閉経
内面的には・・・性ホルモンを中心としたホルモンのアンバランス

2)更年期は二段階
①卵巣のホルモンは、黄体ホルモンと卵胞ホルモンであるが、更年期において排卵が無くなるということは、卵胞においての黄体形成が不能となり、黄体ホルモンの分泌が無くなる。そのために卵巣から分泌されるホルモンは、卵胞ホルモンのみとなり卵巣ホルモンのバランスが崩れる一これが更年期の第一段階
②さらに卵巣が委縮して、卵巣機能の低下が著しくなると卵胞ホルモンの分泌が大きく減少する。そこで脳下垂体前葉は、卵巣刺激ホルモンを多量に分泌して、卵巣を刺激し、卵胞ホルモンの分泌を促進させようとするが、卵巣はこれにこたえる力なく、卵胞ホルモンを分泌することができない。その結果脳下垂体前葉ホルモンである卵巣刺激ホルモンのみが増量し、卵胞ホルモンとのアンバランスが起こる。一この時期が更年期の第二段階

3)ナゼ?自律神経に異常を来たすか
性ホルモンは間脳と脳下垂体の支配を受けている。その間脳は自律神経系の中枢であって、自律神経を支配し、また脳下垂体をも支配している。すなわち自律神経系とホルモン系の最高機関というべきもの。
脳下垂体はホルモン系の纏めをし、支配しているこの二つは解剖学的にも緊密に繋がっているので、間脳一脳下垂体系といわれる。
この関係によって自律神経系とホルモン系は相互に影響し合っているので、ホルモン系の乱れは、自律神経に大きな影響を及ぼす。
☆間脳→脳下垂体→ホルモン系→自律神経系⇒ホルモン系の乱れから機能が大きく崩れ更年期障害が起こる。

4)更年期障害を起こす素質ホルモン系が乱れて、自律神経系が影響を受けても、それだけでは更年期障害は起こらない。更年期を迎えた女性の半数は無症状で過ごし、半数の女性が更年期症状を訴える。それは素質が関係しているためである。
★素質⇒神経質で物事に敏感に反応する人。
この性質の人は、自律神経の不安定な人が多い。
この状態が素質となる。

5)更年期障害による症状はすべて不定愁訴
不定愁訴⇒器質的な障害なしに、多様な症状を訴える自律神経失調によるところの機能的な症状をいう。
(病人の愁訴に、裏付けとなる原因疾患があれば一器質的障害)

☆代表的症状

顔のほてり、のぼせ
冷える(冷え症)
発汗異常
心悸亢進
頭痛・頭重
精神不安
(いらいら・憂欝)

めまい
耳鳴り・耳塞感
不眠
梅核気
知覚異常
(痺れ感・蟻痒感)
掻痒感

肩こり、疲れ易い
血圧(動揺し易い)
貧血
頻尿
物忘れ
精気不正出血(機能性)
带下感

上記の症状の内、2~5以上の訴えを持つものを不定愁訴、または不定愁訴症候群という。

特徴
①症状のほとんどすべてが自覚症状。
②愁訴は一つのことはなく、いくつもの症状を訴える。(多様性)
③精神・身体的な疲労、家庭・職場でのトラブルで悪化する。
④痛み・知覚異常は一定せず、痛みの場所を変え煩わしく訴える。
(症候移動)⇒(器質的疾患の痛みは簡単には移動しない)

6)更年期障害は起こり方にて2つに分類される。
イ、自律神経性のもの
上記のホルモンのアンバランスによる自律神経の失調により、自律神経性の不定愁訴を現わすもの。
ロ、心因性のもの
性に対する欲求不満・家族との精神葛藤などにより心が乱れ、精神緊張が続き、為に肉体的緊張が起こり、種々の身体症状(心身症)の原因となる。

症状は、イ・ロとも大体同じだが、心因性は頑固で治り難い。更年期障害で、頑固で非常に治り難いものの大半は心因性である。(心の問題が解決しない限り症状は良くならない)
更年期障害の大部分は自律神経性のものであるが、約2割が心因性のもの。

下肢痛について

Ⅰ、原因

下肢の痛みの原因は、1)腰椎疾患(椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症、腰椎すべり症など)、2)末梢血行障害(閉塞性動脈硬化症、バージャー病、下肢静脈瘤)、3)末梢神経障害(糖尿病性、アルコール性、薬剤性など)、4)複合性局所疼痛症候群などがある。

Ⅱ、症状

腰椎疾患由来の下肢痛は、いわゆる坐骨神経痛とよばれ、神経が椎骨や椎間板に圧迫されて、下肢や臀部に放散するしびれや痛みが生じる。代表的な疾患に、椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症がある。
末梢血行障害のうち、閉塞性動脈硬化症は、下肢の太い動脈が、動脈硬化により閉塞して、血行が悪くなるため、下肢の冷え、チアノーゼ(←皮膚の色が紫色になる現象)、間歌跛行:休み休みでないと歩けない状態などの症状がでてくる。
末梢神経障害では、おもにすねから足の指先にかけて、びりびりとした痛みや、焼けるような痛みがでてきます。

Ⅲ、分類

腰痛、下肢痛を起こす疾患群
① 脊椎の構造上の欠陥によるもの脊椎分離症、すべり症、側弯症、脊柱管狭窄症
②椎間板の病変に由来するもの椎間板ヘルニア、変形性脊椎症
③筋、筋膜性のものぎっくり腰
④外傷性のもの打撲、捻挫、骨折、脊椎上下関節捻挫
⑤炎症性のもの化膿性脊椎症、脊椎カリエス
⑥代謝性のもの骨粗鬆症、骨軟化症
⑦腫瘍によるもの腰仙部腫瘍、馬尾腫瘍、悪性腫瘍の骨転移
⑧内臓疾患に由来するもの 内科内科胃腸・膵臓・肝臓疾患、虫垂炎、腹部大動脈瘤
泌尿器科腎臓・尿管結石、膀腕疾患
婦人科子宮筋腫、子宮癌、子宮内膜症、子宮後屈、卵巣嚢腫
⑨下肢疾患に由来するもの変股症、膝疾患、脚長差、扁平足
⑩心因性のもの精神的ストレス
⑪環境因子のよるもの職業病

く日本医師会雑誌、128、12、2002、参考>

1)下肢の疼痛

疾病主症状
坐骨神経痛坐骨神経路の疼痛、バレー氏点の証明
大腿神経痛大腿の前・内側、下腿内側の疼痛
閉鎖神経痛大腿内側の疼痛と知覚異常
大腿皮神経痛大腿前外側の疼痛と知覚異常
間欠性跛行症歩行中止にて鈍痛、足背動脈の触診不能
脊髄の疾患椎間板、移行椎、骨折、黄靱帯
直腸・子宮の癌便中の血液、子宮出血
股関節炎運動痛、腫脹、踵部打による股関節痛
下肢静脈瘤立位のとき下肢に瘤を現わす
偏平足足底の扁平、足背・足底痛
血栓静脈炎歩行・立位にて増痛、緊張感、浮腫
肢端紅痛症指部の激痛、潮紅、暗赤色
レーノー病肢端蒼白厭冷、次に青紫、壊死
筋腱の疾患筋の握痛、腱腫脹、歩行痛

2)下肢の運動マヒ

疾病主症状
坐骨神経麻痺下腿の屈曲・足指の運動障害
大腿神経麻痺大腿を持ち上げるのが困難
脳卒中脳出血、脳軟化症、くも膜下出血
運動失調症数個筋群の協調障害、小脳迷路脊髄障害
脊髄空洞症筋萎縮、痛・温覚消失、皮膚栄養障害
急性脊髄前角症軽発熱、弛緩性麻痺、腱反射消失
ランドリー麻痺運動麻痺は下肢から上肢におよび死す
らい病手筋の萎縮、知覚脱出、指端奇形
ヒステリー間歌的、電気反応正常

3)下肢の疼痛と運動麻痺

疾病主症状
神経炎圧痛不鮮明、弛緩性麻痺、知覚鈍麻
脊髄性筋萎縮症手部から始まる筋萎縮、知覚障害
神経性筋萎縮症足部から始まる麻痺と萎縮、知覚鈍麻
進行性筋萎縮症胴部およびこれに近接する四肢筋萎縮
脳・脊髄梅毒知覚・運動混同麻痺、ときに疼痛
脊髄腫瘍始め知覚過敏、知覚鈍麻、運動麻痺
脊髄出血急激な激痛、知覚・運動麻痺
脊髄労電撃様疼痛、腱反射減弱、運動失調
脊椎炎神経痛、ついで麻痺、痙性麻痺

4)下肢の限局性運動充進

疾病主症状
排腹筋痙攣腓腹に激痛を伴う強直性痙攣

顔面部疾患について

A、顔面痛

顔面神経の支配範囲

1、顔面に分布されている顔の表情筋の動きを調節する神経で、顔面神経の線維の大部分はこの運動神経で、顔面神経麻痺されると顔が思うように動けなくなる。

2、涙を出す涙腺への神経線維(自律神経)、この神経支配によって涙の分泌が調整される。顔面神経麻痺になると涙の分泌が異常を起こす。

3、舌の前2/3の味覚を伝える感覚神経。この神経が麻痺されると顔面神経麻痺した側の前三分の一の味覚障害が起きる。

4、そのほかのいくつの小さいな神経線維がある。

I、顔面痛の主な疾患

部位誘発因子臨床的特長随伴症状
三叉神経痛三叉神経
2枝>3枝>1枝
1側性(両側0.9)
引き金点への接触
食事・会話・洗面・歯磨きなど
男女比1:2、50歳以上
発作性(数秒~2・3分)激痛
知覚運動麻痺(一)
肩こり、耳鳴、聴力低下が多い
特発性
舌咽神経痛耳の深部が多い
耳後下部、咽喉頭部、
舌根部、下顎部
喋下
会話、咀嚼、あくび、咳など
強い発作性の痛み
時に徐脈
失神を伴うもの
特発性
咽頭、扁桃部の腫瘍や膿瘍から稀
帯状疱疹後神経痛胸神経(48%)>三叉神経(33%)>頚神経(13%)>腰神経>仙骨神経
三叉神経痛:第1枝がほとんど
接触
運動
第1枝:眼痛
第3枝:歯痛から始まる痛みと疱疹、軽度の知覚障害
帯状疱疹
群発性頭痛眼の周囲が多い
ついで側頭、前頚、後頚、上顎部
通常偏側性
アルコール男性に多い(4~6倍)
拍動性、えぐるような自殺を考えるような激痛
眼瞼下垂、結膜充血、流涙、縮瞳、鼻閉、汁など
非定型顔面痛ー側または両側
眼の奥・頬・鼻の奥など広く漠然
感情の変化
疲労
温度の変化
中年女性に多い痛みは
血管or自律神経支配と関連
特発性
血管運動障害、顔面紅潮、結膜充血、流涙、鼻汁、顔面発汗、精神不安
顎関節症顎関節、顔面、頭部咀嚼筋食事
顎の圧迫
女性に多い(2~3倍)歯の脱落
リウマチ関節炎
側頭動脈炎こめかみ、顔面 激痛、55歳以下は稀 
反射性交感神経 外傷や手術、穿刺などの刺激難治性顔面痛に案外多い 

Ⅱ、顔面痛の特徴

原因は、頭蓋内にあるといわれている。ほとんどは、脳幹に三叉神経が入る入り口の部分に、細い血管が当たって神経を刺激していることが原因である。MRI検査で、詳細な画像を撮影すると、血管が三叉神経を圧迫している状態がよくわかる(一般的なMRIの撮り方ではわかりません)。稀に、脳腫瘍が三叉神経を圧迫している場合もある。

三叉神経痛とは顔に痛みのでる病気である。顔の感覚(いたい、さわった、つめたい、あついなど)を脳に伝える神経が三叉神経であるが、この三叉神経に痛みが起こり、顔を痛く感じるのが三叉神経痛である。いろいろな理由でおこるが、特発性三叉神経痛という、むかしは原因のわからなかったものが、じつは脳に原因があっておこることがわかってきた。

①三叉神経痛の症状
三叉神経痛の顔の痛みにはかなり特徴がある。痛みは非常に強いものであるが、突発的な痛みが特徴。一瞬の走るような痛みで、数秒のものがほとんどで、ながく続いてもせいぜい数十秒である。5分10分と続くような痛み、じりじりとした痛みなどは三叉神経痛ではないことがほとんど。三叉神経痛では痛みはいろいろな動作で誘発される。洗顔、お化粧、ひげそりなどで顔に痛みが走る。そしゃく(ものをかむ動作)に誘発されることもある。つめたい水をのむと痛みが走ることもあり、痛みで歯磨きができないこともある。触ると痛みを誘発されるポイントがあり、鼻の横などを触ると、顔面にぴっと痛みが走る、という場合は三叉神経痛の可能性が高い。季節によって痛みが変動するのも特徴で11月や2月に痛みがひどくなる方が多いようである。
三叉神経には三つの枝があって最初の枝がおでこ、2番目の枝が頬、3番目の枝が下あごにいっている。この枝の範囲に痛みがおこるのが特徴で、1本の枝にだけ痛みが出る場合と、2本以上でることがある。
たとえば1番目と2番目(おでこと頬)、あるいは2番目と3番目(頬と下あご)というような分布の痛みが起こる。しかし1番目と3番目というようにスキップして痛むことはない。

②三叉神経ってどんな神経?
三叉神経は脳神経のなかで最も大きな神経。その名の通り、眼神経、上顎神経、下顎神経の三つの知覚神経に分かれている。なお、下顎神経は運動神経も入っている。
i、眼神経:眼神経は眼窩を通り抜けて前方へ走り、眼球、結膜、上眼瞼、涙腺神経、前頭部、鼻背の皮膚、鼻腔前部、などの感覚性に支配します。
ii、上顎神経:上顎神経は翼口蓋窩へ入り、上顎の歯、頬の皮膚、上顎洞、口蓋と上唇の粘膜、頬粘膜、眼窩下神経などを感覚性に支配します。
iii、下顎神経:下顎神経は三叉神経の中で最も大きな枝で、卵円孔を貫き、側頭下窩に現れ、側頭部の皮膚、頬後部の皮膚、下歯、歯肉、下の前三分の二、下唇の粘膜など感覚性に支配します。
咀嚼筋などを支配する運動性を線維も含みます。

③三叉神経痛の症状と原因
三叉神経痛はいわゆる顔面神経痛とも呼ばれる顔面の鋭い痛みが生じる疾患である。顔の片側のある部分が電気が走るように痛み、ひどいときは食事をすることもできない。痛みは常時あるわけではなく、食事、歯磨き、洗顔、髭剃り、会話などで誘発されます。痛みは神経が刺激されるような、びりっとすると表現される電撃痛であるが、数秒、数分後にはうそのように消えることもある。初期には、部分的に鈍痛を感じる程度であるが、進行するにしたがって堪え難い激痛が走るようになり、日常生活に大きな苦痛を伴う。
三叉神経痛の原因はまだ不明とされていることが多いが、様々なな言い方もある。脳幹部に発生した腫瘍、脳動脈瘤によって三叉神経が圧迫されていることがあるし、多発性硬化症の症状であったり、帯状疱疹の後遺症のこともあると言われている。最近は脳幹から出た三叉神経が周囲の血管に圧迫されるために痛みが起こるとする考え方も報告されている。
もう少し詳しく説明しますと、この三叉神経の根部分は中枢性ミエリン(神経を包んでいる鞘のようなもので髄鞘ともよばれます)から末梢性ミエリンヘの移行部で、最も弱い部分である。この部分が各種動脈による圧迫により分節的脱髄(神経を包んでいる鞘が痛んでしまうこと)により人工的に異常な神経結合がおこり、過敏になった三叉神経が反応して三叉神経痛が起こると考えられている。

A)原発性三叉神経痛
1)中年以上(とくに50歳以上が圧倒的も多い)
2)3:2あるいは4:3で女子に多い
3)右側の罹患率のほうが左側よりやや多く、左右の枝が同時に罹患することはまずない。
4)罹患枝は、最も多いのが第3枝、ついで第2枝、第1枝である。

B)真性三叉神経痛
Sweet、Whiteらは、次の5条件が満たされる必要があると報告している。
1)発作的な疼痛が走る。
2)明瞭なtrigger zone(point)が存在し、発作はこれに刺激されて起こる。
3)疼痛部位は三叉神経支配域に限局する。
4)偏側的である。
5)他覚的に知覚障害がない。

C)不定型顔面痛
1)若い人に多い。
2)深在性である。
3)焼けるような持続痛である。
4)痛みの強さに波はあるが、決して発作的でなく、また神経痛のような激痛ではない。
5)痛みの分布は広汎であり、神経の走行に添っていない。
6)対側にも及ぶし、頚部や肩のほうにも同様な性質の痛みを感じていることも多い。
7)はっきりとしたtrigger zone(point)は存在しない。
8)自律神経症状として、流涙、紅潮、浮腫、鼻閉、鼻汁などを伴うことがある。

D)三叉神経痛と他の疾患との鑑別
1)腫瘍あるいは動脈瘤による三叉神経の圧迫この場合には、痛みが持続的であり、顔面の感覚障害、近隣脳神経の障害などを伴う。
2)非定型性顔面痛(At叩ical facial pain)
 頭・顔・頚に起こる神経痛様の痛みである。交感神経の障害によって起こると考えられているもの。
 この場合には、三叉神経痛とは痛みの部位が三叉神経支配領域と一致しない点で異なる。
3)歯疾患と副鼻腔炎:この場合には、痛みが数時間にわたって続く。
4)多発性硬化症:三叉神経の下行枝が犯された場合に同様の神経痛発作を起こす
 この場合には、多発性硬化症による他の神経症状が認められる。
5)帯状疱疹後の痛み:帯状疱疹の既往があり、痛みが持続性である。
 この場合には、感覚障害を伴う点で鑑別しうる。

不定型顔面痛・・・
三叉神経痛と不定型顔面痛の鑑別を行い、三叉神経痛の場合は、第1枝・第2枝は経過が思わしくない。第3枝は経過がよい。ただし、治療継続の中で、一時的に痛みがやや強くなることがあるので、患者さんに充分な説明が必要である。
不定型顔面痛は、鍼灸の適応であり、経過もよい。

B、顔面麻痺

Ⅰ、はじめに

顔面神経麻痺には中枢性と末梢性とがあり、前者は脳腫瘍、脳梗塞等の合併症に見られることが多い。なお、三叉神経痛(俗称「顔面神経痛」)と混同されるが別のものである。「末梢性」は日常生活に於いてしばしば見受けられるので、この末梢性顔面神経麻痺について説明する。末梢性顔面神経麻痺のおもな原因には下記の2種があります。

1)ベル麻痺・・・
原因不明であると云われていますが採血してウイルス検査をすると4~5日に数%の人に単純ヘルルペスウイルス、HSV(Herpes Simplex Virus)が陽性(4倍末満が正常)と返ってくることがあるのです。

2)ハント症候群・・・
この場合は水痘帯状疱疹ウイルスVZV(Varicella Zoster Virus)が、4倍以上の陽性で返ってきます。以上からベル麻痺は単純ヘルペス・ウイルスが陽性にでるのは数%にすぎませんが、ハント症候群では水痘帯状疱疹ウィルスが陽性に出ることを考え検査結果が出る4~5日までの間は抗ウイルス剤を処方するほうが安全ですよ!と申し上げたいのです。
ハント症候群の水痘帯状疱疹ウイルスは強烈に神経障害を起こさせますので勿論後遣症が出ます。
当初ハント症候群かベル麻痺かハッキリしない場合には当初から抗ウイルス剤とステロイド剤の両方の点滴でカバーすることが重要と考えています。
このように最終的な診断も何日か後になる場合もありますが、治療開始は受診後すぐに可能です。重ねて申しますが、最初の4~5日を無駄にしないでください。早期に受診すれば、ベル麻酔、ハント症候群いずれの場合であっても、それなりに対応できるものです。

Ⅱ、末梢性顔面神経麻痺の分類と統計

この麻痺で来院した患者総数から見た診断別分類と患者数の割合は次の如くである。(神大病院、耳鼻咽喉科、顔面神経外来の統計より)
a)ベル麻痺・・・・・・・71%
b)ハント症候群・・・・・11%
c)外傷・・・・・・・・・9%
d)耳性・・・・・・・・・4%
e)その他・・・・・・・・3%
f)不明・・・・・・・・・2%

Ⅲ、ベル麻痺とハント症候群の原因と症状

上記のうち多数を占めるa)とb)の診断別による原因、特有な症状を列記しましょう。
a)ベル麻痺・・循環傷害説、単純ヘルペスウィルス説(20%)
症状:朝、口紅をぬろうとしたら唇が片方へ引っ張られていた。
片方の眼瞼が閉じにくい。歯磨きしていたら片方の口角から唾液がもれた。
数日前から片方顔面の違和感に気づく。
b)ハント症候群・・水痘帯状疱疹ウイルス
症状:顔面麻痺は起こるが前触れ症状として、片方の外耳道、または耳介にできる帯状疱疹(出来ない場合もある。)による耳痛の他に眩暈、耳鳴り難聴が優先する場合もある。症状はa)に比し麻痺も重症なことが多く後遺症も出やすい。

Ⅳ、顔面神経麻痺の症状と原因

顔面神経は左右の脳幹から内耳道、中耳腔を通って顔面に出る脳神経の一つである。顔面筋肉の運動や舌の味覚の一部、さらには涙腺、舌下腺などに分布する副交感神経などをつかさどる神経で、顔面神経麻痺とはこの神経が様々な原因で障害され、顔面機能が消失する病気である。末梢に走行する主な顔面神経線維は右の図の如くである。顔面神経麻痺は臨床的には中枢性麻痺と末梢性顔面神経麻痺に分けられる。中枢性顔面神経麻痺は顔面神経核上病変(上位神経)による麻痺である。
原因は脳溢血、脳腫瘍、その他脳内の病変により発する症状である。

Ⅴ、顔面神経麻痺の主な原因

1)ベル麻痺(顔面神経麻痺)
顔面神経麻痺は急性発症し原因が不明なものをベル麻痺と呼び、最も多くみられる。全体の顔面神経麻痺の65%前後を占めるとされている。単純ヘルペスウイルスの関与や顔面神経の栄養血管が何らかの原因で、貧血で低酸素状態になり、顔面神経に浮腫がおこるために麻痺が発生する考えられている。また、寒冷刺激による循環不全やストレスが原因と考えられる例もある。顔面神経麻痺は男女を問わず、また特定の季節に関係なく発症する。

2)ラムゼイ・ハント症候群
顔面神経麻痺は帯状疱疹ウィルスの感染により耳痛を発症、耳たぶや外耳道に水疱ができる。聴神経が侵されると難聴になることもある。ベル麻痺の次に発生頻度高く、10~15%程度だとされている。

3)外傷性顔面神経麻痺
頭部外傷、側頭部外傷、顔面外傷、周産期外傷など。外傷性顔面神経麻痺は交通事故などによる側頭骨骨折に併発することが多い。

4)そのほかの顔面神経麻痺
腫瘍性、耳炎性、先天性、手術損傷などがある。

Ⅵ、中枢性麻痺と末梢性麻痺の鑑別の仕方

オデコにシワ寄せが出来るか否かによる
片方のデコにしかシワ寄せが出来ないとき、出来ても弱いとき・・・末梢性
両方のデコにシワ寄せが左右対称にできるとき・・・中枢性
完全麻痺か不完全麻痺か

Ⅶ、顔面神経麻痺の針灸(鍼灸)治療について

顔面神経麻痺は自然に治ることもある。しかし、病状の程度や治療法、治療開始時期などによって、予後に大きく影響することがある。顔面神経麻痺に対して、現代医学ではまだ特効薬はなく、発症直後には、一般的に副腎皮質ステロイドや抗ウイルス剤の点滴、星状神経節ブロックなどを行い、改善されなければ、血流改善剤、ビタミン剤や神経賦活剤などの薬が処方されるぐらいである。病院によっては、顔面神経減荷術の手術を行うところもあるが、手術の後遺症を伴うなどのリスクが高いと言われている。また、因果関係はまだはっきりしないということで、現状ではよい治療法とは言いきれない。顔面神経麻痺は時間が経てば経つほど、治りにくくなり、顔面神経麻痺の後遺症が残こる。したがって、麻痺が起こった早い内からの治療がベストであり、一年以上という治療期間を経て、完治する患者さんもいるが、発症してからの半年前後が勝負のわかれ目だと思われる。
鍼灸は場合によっては、西洋医学との併用することにより相乗効果がかなり認められている。鍼灸を使うことで治癒率を高め、短期間に回復させて、強い後遺症を防ぐことが可能である。顔面神経麻痺は早期治療が大切な病気である。鍼は顔面を支配する経絡のツボを中心に、顔面神経の通路を第一の治療点とし、神経を回復させるのが主な目的となる。末梢循環や免疫力の改善も同時に行われる。多くの顔面神経麻痺の臨床を観察してみると、早期の針灸治療によって、麻痺した神経をよりはやく取り戻し、顔面神経麻痺の後遺症を残さないか、もしくは軽度にどどめられる可能性が高い。また、一般的にベル麻痺に比べ、ハント症候群の予後はあまりよくないと言われているが、治癒に至る場合もある。

1)中枢性は治癒困難であり、効果も期待できない。鍼灸の適応は末梢性である。

2)罹患初期は軽刺激を目標に施術する。
末梢性顔面神経マヒは、経絡の気血の流れが弱くなっているところに、風寒(ふうかん)や風熱(ふうねつ)という邪気が襲いかかり、その結果として気血の流れが滞り、筋肉が麻痺すると考えられる。風邪(ふうじゃ)、熱邪(ねつじゃ)は身体の上の方を犯しやすい邪気。寒邪(かんじゃ)はよく筋肉、経絡を引きつらせる邪気。治療の1つ目のポイントは、まず早期に治療を開始すること。邪気の性質を見極め、体質を考慮しながら鍼治療し、スムーズに回復期へと移行させることが大切である。2つ目のポイントは、麻痺の時期を見ながら顔の経絡の気血の流れをよくすること、そして邪気を追い出すことである。
経絡の流れをそのまま使うのは鍼治療の1つであるが、顔の治療なのに手や足のツボを使う理由がここにある経絡と言う道筋が繋がっているからである。

【急性期】
顔面神経マヒは、始めの1週間は治療で邪気を抑えていても進行していく過程をとる。この時期は、顔面部で邪気と人間の正気が戦っている最中なので、主に手足のツボを使用して強めの刺激で遠隔治療をする。遠隔治療とは、局所から離れた所に取穴を行い治療を行うことで、経絡と言う道筋を活用しているためである。局所から離れた所に刺激を与えることにより、気や血のエネルギーの流れを改善する事により局所の症状を改善する目的がある。これは、東洋医学(中医学)の独特な考えの治療の特徴でもある。このような治療は局所のみの治療より、全体的な治療になり治療効果が高くなる。

【回復期】
1週間ぐらいで麻痺の状態が決まり安定する。邪気と正気の激しい戦いが一段落してから主に顔面部のツボを使い、同時に手足のツボで気血を整える。

【慢性期】
治療開始が遅れたりして慢性期になってしまった場合は、顔面部の気を補い、また手足のツボで気を補ったり調整したりする。

腰痛について

Ⅰ、腰痛をきたす疾患

分類疾病主症状
A, 骨・関節に関連する腰痛椎間板ヘルニア突発性腰痛の既症
坐骨神経痛
黄靭帯肥厚硬直性運動障害
膝蓋腱・アキレス腱反射充進
腰仙移行椎第5腰椎の不対称、横突起異常
脊椎の分離サニり症頑固な持続性疼痛
階段状陥凹
脊髄側湾症脚短縮側凸の脊柱側湾
腰椎カリエス棘突起叩打痛、腰痛前湾増強膿瘍
横突起骨折限局性疼痛、患側屈曲痛
脊椎炎脊柱の疼痛・変形・脊髄症状
変形性脊椎症朝腰痛あり、運動により軽減
B, 椎管腔内の病変による腰痛脊髄腫瘍髄節的神経刺激症状
脊髄膜炎軽度の限局性疼痛、脊髄症状
脊髄梅毒脊髄症状が主体となる
C, 末梢神経性の腰痛腰・尾骨神経痛腰腹部・大腿内側・尾骨部などの疼痛
神経炎感染性疾患に注意、発熱知覚障害
物理的刺激圧迫、牽引、癒着、損傷
糖尿病尿検査、飢渇、頻尿、神経性素因
ビタミンB欠乏性腰痛食欲不振、便秘、四肢倦怠
D, 軟部組織に基因する腰痛筋・筋膜性腰痛症圧痛不明、脊柱の前屈困難
筋肉リウマチ症状出没性、過労・寒冷で増悪
筋痙直。筋硬症・筋浮腫腸骨稜.棘上突起・仙椎などの筋付着部圧痛
化膿性筋炎腫瘍、圧痛、発赤、発熱
筋・腱・靭帯の外傷既往症、圧痛部位および限局性に着目
E, 内臓疾患に基因する腰痛婦人科疾患子宮の位置異常、癒着、腫瘍、卵巢腫瘍
消化器疾患下痢・便秘
泌尿器疾患腎炎、腎臓結石、腎硬化症、腎盂炎
F, その他の腰痛神経症精神不安、頭重、めまい、不眠
自律神経・内分泌の障害低血圧、冷症、ワゴトニー、副腎障
下肢の疾患下肢冷感、X·O脚、内反股・足、偏平足

Ⅱ、年代別の腰痛の分類

1、幼少年期の腰痛 1)脊椎分離症、脊椎辷り症
 2)腰椎カリエス、腰椎軟骨症
いわゆる発育痛としての腰痛
 3)腰部椎間板ヘルニアおよび骨端症による腰痛ならびに下肢放散痛
2、青壮年期の腰痛1、腰痛および下肢放散痛を主訴とするもの1)腰部椎間板ヘルニア症
 2)馬尾神経腫瘍
 3)腰椎の癌転移
 4)変形性股関節症の初期
2、腰痛のみを主訴とするもの1)筋・筋膜性腰痛
 2)椎間関節性腰痛症
 3)脊椎分離症・こり症
 4)椎間板性腰痛症
 5)いわゆる腰痛症
 6)「ぎっくり腰」「きっくら加気」などで代表される急性腰痛
3、老年期の腰痛 1)変形性脊椎症
 2)仮性腰椎辷り症
 3)腰椎管狭窄
 4)脊椎骨粗鬆症
 5)癌の腰椎転移
 6)変形性股関節症
 7)腰椎カリエス・仙腸関節結核
 8)総腸骨動脈閉鎖症(リューリュシュ症候群)

女性の腰痛
卵巣・卵管・子宮体(交感神経)、
子宮頚部、膣の上2/3(副交感神経)→脊髄→体性感覚
疾患:子宮位置異常、月経、妊娠、梨状筋炎、骨盤腹膜炎、子宮癌、子宮内膜症骨盤内臓器癒着、子宮筋腫、卵巣膿瘍など

Ⅲ、検査法の取り決め

(1)理学的検査
底屈テスト
背屈テスト
患者の局指を検者の手指に抗して底背屈させる。両側同時に行い左右を比較し、減弱を見る
パトリックテスト仰臥位にて検側の外果を伸展した他側の膝につけさせ、他動的に検側下肢を外旋させる運動で、股関節部位に痛みの出るものとする。
ラセーグテスト仰臥位にて、膝関節伸展位で下肢を挙上し60度までに坐骨神経痛性の疼痛が下肢に再現されたものを陽性とする。
挙上により誘発される大腿屈筋群の牽引痛は陽性としない
圧迫テスト双手で患者の腰椎を上から順に圧迫し、殿下肢に放散のあるものを陽性 とする。拇指で確認すること
ニュートンテスト双手で仙骨正中部を圧迫し、仙腸関節部に痛みのあるものを陽性とする
大腿神経伸展腹臥位にて、膝関節を直角に屈曲させ、片手で臀部を押さえ、他方の手で足関節をもって股関節を伸展させるように引き上げる。
この時大腿前面に放散痛のあるものを陽性とする
叩打痛打腱槌にて腰椎の棘突起を上から順に叩打し、臀下肢に放散のあるものを陽性とする

(2)運動負荷テスト
この検査の目的は、腰の痛みによる日常生活動作の障害を、患者の訴えだけでなく、ベットサイドでも評価することにある。
座位→立位については椅子を用い、他は立位で行う

Ⅳ、腰痛症状の見分け方

●痛みの症状は

痛み方考えられる腰痛
動けない痛さ筋筋膜性腰痛・捻挫・ギックリ腰など
前屈時に制限・増強椎間板ヘルニアなど
背屈時に増強椎間関節症・分離症・癌の浸潤などによる後腹膜の痛み
立位で背屈すると、両下肢がしびれる腰部脊椎間狭窄症
前屈姿勢から腰を伸展する時に痛む脊椎分離症・すべり症
ちょっとした体動で痛む化膿性脊椎炎・圧迫骨折

●痛みの拡がり

  • 放散痛があり、(たとえば)膝に放散する→椎間板ヘルニアなどの根性痛が考えられる。
    注意 坐骨神経痛の放散は連続しないでスキップしている場合がほとんど。
  • 大腿部、下腿部のしめつける痛みの拡がり→腰部脊椎間狭窄症

●一日の痛みの変動について

  • 起床時や動作時の開始に痛む→椎間関節症・腰部脊柱管狭窄症が考えられる。
  • 安静時に増悪する痛み→ヘルペス後神経痛・癌の脊椎移転などの腰痛が考えられる。
  • 体重減少がひどい。食欲不振。排尿障害がある場合は専門の先生に相談。

●どのような姿勢で痛いのか

  • 立位
  • 歩行時
  • 座位…長時間の座位姿勢は、椎間板へ大きな負担が掛かり腰痛を悪化させる
  • 中腰…椎間板へ大きな負担が掛かり。腰痛を悪化させる
  • 前屈…痛みが酷くなる(椎間板ヘルニア)
  • 前屈から身体を戻す時…痛みが強くなる(脊椎分離症・すべり症)
  • 後屈…痛みが酷くなる(椎間関節症・分離症)
  • 両下肢がしびれる
  • 締め付けられるような痛みがある(腰部脊椎間狭窄症)
  • 生理時や出産後の腰痛(仙腸関節に問題)
  • 左右に振りかえる…腰椎の変位による痛みが多い
  • 左に振り返った時、左側が痛い…左側の神経根(後根)の圧迫もしくは筋肉繊維輪の損傷
    左に振り返った時、右側が痛い…右側の神経根(前根)の圧迫が多い
    左右に倒す…腰椎の横ズレの変位と筋肉捻挫が多い。肩とお尻を痛くない方に倒した姿勢が楽なのが特徴
  • 姿勢を少し変えるだけで痛む…化膿性脊椎炎・圧迫骨折
  • 起床時や身体を動かそうとした時に痛むか…椎間関節症・腰部脊椎間狭窄症
    腰部脊椎間狭窄症で起こりやすい間歇性跛行は、血管の病気である閉塞性動脈硬化症でも起こり、また、朝だけ痛いという症状は、第1腰椎が硬直している人に特徵的
  • 全ての姿勢で痛い…痛くて動けなくなる腰痛(ギックリ腰・筋筋膜性腰痛・捻挫など)
  • 安静時に痛みが酷くなる…腎臓や膵臓の病気・ヘルペス後神経痛・癌の移転などの腰痛を考慮

●腰痛から考えられる主な病気

気になる症状腰が痛い。
  • 腰背部痛、化膿性背推炎、発熱身体を動かすと痛みが増強、特に夜に傷が増強
     脊椎カリエス血尿、頻尿、残尿感、排尿困難、発熱、急性腎盂腎炎
  • 腰背部痛、側腹部痛吐き、便秘、遊走腎、下腹部痛、血尿、尿管結石、水尿管症
  • 下腹部の腫瘤感、腫満感、痛み、月経異常、動悸、息切れ、子宮筋腫
  • 不正性器出血、おりものの増加、下腹部痛、血尿、血便、子宮頸がん・肩こり、躁鬱、のぼせ、ほてり、発汗、動機、めまい腹部に拍動性の腰痛、更年期障害
  • 腹部に拍動性の腰痛、腰痛、腹部大動脈瘤
  • 胸、背中、ほねの痛み、全身倦怠感、貧血、むくみ、骨折、体重減少、多张性骨髓腫

頭痛について

Ⅰ、概説

頭痛はよくある身体的愁訴であり、誰でもよく経験するもの。慢性頭痛の大半は機能性の頭痛で、緊張型頭痛、片頭痛と両者の混合性頭痛である。その中には体質的素因(いわゆる頭痛もち)に加えて心理・社会的要因が強く影響しているものがある。

患者さんは、「とにかく頭痛を止めてほしい」という願望と同時に脳出血や脳腫瘍(しゅよう)などの重薦な疾患ではないかという不安をあわせもつものである。したがって、頭痛の診療においては、心身両面からのアプローチが重要な意味をもつ。

Ⅱ、症状

頭痛の診断においては、まず器質的脳疾患によるものか機能性の頭痛かを鑑別する必要がある。慢性に経過する頭痛の多くは機能性頭痛であるが、詳細な問診や必要な検査を行って器質的疾患を除外すること。機能性頭痛には、主に緊張型頭痛、片頭痛、混合型頭痛に分類される。

1)緊張型頭痛

頭痛の性質は、頭にお椀を被ったように締めつけられるような持続的な痛み。原因は、身体的、心理的に引き起こされる頭部筋群の過緊張によるものと考えられています。身体的な原因としては、直頸椎の生理的彎曲、うつむき姿勢、眼精疲労などによるものであり、心理的要因としては種々のストレスや不安・抑うつ状態によるものがある。

2)片頭痛

一側性(頭の半分)の拍動性のズキズキとした痛みが特徴的である。時に、光や音に対する過敏性が強く嘔吐することもある。原因については不明であるが、脳血管の収縮—拡張に伴って起こるとされている。心理的要因については不明であるが、神経質で緊張しやすく、不安、抑うつ傾向が認められる場合が多いとされている。
また、食事性の誘発因子として、チーズに含まれるチラミン、チョコレート中のフェニルチラミン、ホットドッグ中の硝酸ナトリウムが有名である。

3)混合型頭痛

頭痛が慢性に経過すると両者の性質をあわせもったような頭痛となる。

Ⅲ、頭痛の問診による診断

(1)発症様式

a、前駆症状として幻視・閃光・暗点、
局所神経症状などが発作10~40分前に出現する
片頭痛とくに典型的片頭痛のみ
b、数分から数時間のうちに急性の激しい頭痛が初めて起こったくも膜下出血、髄膜炎、中硬膜動脈損傷、脳出血、高血圧症、脳症、CO中毒、急性緑内障、急性副鼻腔炎、側頭動脈炎など
c、急性の頭痛発作が反復して起こる片頭痛、動静脈奇形によるくも膜下出血、髄液の流通障害を起こす脳室系腫瘍など
d、数日から数週間にかけて亜急性の頭痛硬膜下血腫、脳腫瘍、脳膿瘍、髄膜炎、慢性副鼻腔炎、中耳炎など
e、数ヶ月から数年におよぶ慢性の頭痛筋収縮性頭痛、心因性ないし神経症的頭痛、慢性副鼻腔炎など

(2)部位

a、両側性髄膜炎、くも膜下出血、発熱、感染、脳動脈硬化症、
特殊な場合を除けば一般には両側性に出現
b、片側性片頭痛(2/3の頻度)、内頚動脈血栓症、側頭動脈炎、動脈瘤、動静脈奇形など
c、後頭部筋収縮性頭痛、天幕下腫瘍、髄膜炎、くも膜下出血、高血圧、後頭神経痛、頚部の障害など
d、前頭部副鼻腔炎、緑内障、内頚動脈瘤など

(3)性質

a、拍動性の痛み血管性頭痛に特徴的である。
片頭痛、側頭動脈炎、高血圧性脳症、血管腫、動静脈奇形など
b、締め付けられるような痛み筋収縮性頭痛
c、激しい頭痛髄膜炎や脳炎によるもの、髄膜に波及した腫瘍、片頭痛、ヒスタミン性頭痛、三叉神経痛
d、初期軽微で経過とともに程度が増す脳腫瘍
e、突然激しい頭痛・意識障害くも膜下出血や脳室への出血

(4)時間

a、発作的で短時間でよくなる片頭痛、心因性頭痛
b、持続的な頭痛で次第に増悪する脳腫瘍
c、昼間仕事中に起こる筋収縮性頭痛、眼精疲労
d、早朝に起こる高血圧症、脳動脈硬化症、頭蓋内圧充進、敗血症
e、起床後2~3時間で起こる副鼻腔炎、蓄膿症
f、夕方に強くなる眼精疲労、心因性
g、夜間に強く痛む腎炎、梅毒
h、長期間平均して続く神経症、うつ病

Ⅳ、鍼灸に適する頭痛の鑑別診断

頭痛の症状誘因・増悪因子・緩解因子随伴症状、検査
典型的片頭痛前兆あり(閃輝性暗点)
ー側、交代性、拍動性
数回/月、家族歴(+)、
短時間で最高になり4~24時間持続
(誘)精神的ストレス、妊娠
(悪)アルコール、煙草
(緩)睡眠、カフェイン
エルゴタミン
悪心、嘔吐、
反対側の神経症状脳波異常(約30%)
普通型片頭痛前駆症(不定の精神、自律神経症状)
ー側、交代性、ときに両側性、拍動性、夜間、早朝、
家族歴(+)
(誘)妊娠
(悪)就職、結婚、思春期
(緩)ストレスよりの解放、エルゴタミン
悪心、嘔吐、多尿
羞明、鼻閉
群発頭痛突発性、一側性、穿孔性疼痛、男性、夜間、
一度発症すると連日起こる
30分で最高、2~3時間持続
(誘)精神的ストレス
(悪)アルコール、血管拡張剤
(緩)エルゴタミン
   抗ヒスタミン
患者の流涙、発汗顔面紅潮、流涎
鼻汁、鼻閉感
筋緊張性頭痛発症緩徐、両側性、
痛みの性質多彩、局在不定ほとんど毎日、夕方増悪傾向
(誘)精神的、社会的要因、転業
(悪)寒冷、湿気
    眼精疲労
局所筋の硬結圧痛、自律神経症状(めまい、吐気)
高血圧症早朝起床時に著明
昼間は軽快
(悪)臥位、
精神的ストレス
(緩)降圧剤
高血圧性全身性変化
EKG、眼底・胸部XP
その他
側頭動脈炎前駆症(発熱、筋痛、倦怠感)、動揺性、拍動性
圧迫性、一側性、両側性
好発年齢50歳以上
(悪)歩行、寒冷
(緩)副腎皮質ホルモン
高度の視力障害
ときに心筋梗塞
脳梗塞、血沈、末梢血
(白血球増多)
副鼻腔炎顔部重圧感、ときに後頭部痛、数日持続、午前中に好発(悪)前屈位、歩行、咳嗽、アルコール
(緩)血管収縮剤

鼻閉塞、鼻漏、局所の圧痛、頭部・顔面のX線

Ⅴ、片頭痛と筋収縮性頭痛の鑑別

片頭痛筋収縮性頭痛
典型的普通型
発症年齢20歳代、ついで10歳代各年齢層
性比(男:女)1:1、5~2
遺伝しばしばありなし
前駆症状閃輝暗点なしなし
頭痛部位ー側性
前頭・側頭部
ー側または両側性頭全体にひろがる両側性
頭頂・後頭・項部
性質拍動性
(極期)持続性鈍痛
拍動性
次いで持続性
持続性(日内変動)
緊縛感、圧迫感
出現様式急激に出現徐々に出現徐々に出現
発作の持続2~数時間数時間~2・3日間数日~数週
周期性数週(月・日)おきに発作を繰り返す。月経周期とも関連なし
睡眠との関連睡眠により軽快昼夜にわたり持続
随伴症状悪心・嘔吐ありあり時に悪心
脳局所症状視野欠損・異常知覚なしなし
その他羞明鼻汁・鼻閉・流涙
結膜充血
肩・首筋のこり、圧痛、筋硬結
増悪因子疲労・空腹・ストレス・直射日光・食物(チーズ・チョコ)により増悪
飲酒による増悪
ストレス・過労・頚椎症・頭部外傷の既往・ 飲酒により軽減
治療酒石酸エルゴタミン有効
鍼灸適応
局麻・マッサージ・筋弛
緩剤・鎮痛剤有効
鍼灸適応

Ⅵ、危険な徴候

頭痛は、緊急に集中治療を施さなければ死に至る疾患の表徴であることがある。その疾患とはクモ膜下出血、髄膜炎、大きな脳出血の3つである。脳腫瘍も放置すれば確実に死に至るが、緊急度では前3者には遠く及ばない。また、重度の緑内障発作であった場合には、生命には影響しないが失明の危険が大きく、緊急度は高い。それらの疾患を示唆する徴候は以下の通りである。

  • 今までに経験したことがないような頭痛か、今までの頭痛で最悪の頭痛(first、worst):クモ膜下出血、髄膜炎
  • 高齢者の初発頭痛:脳出血
  • 持続進行性の頭痛:髄膜炎,脳腫瘍
  • 突発(何時何分に起きた、何をしている時に起きたと正確に言える):クモ膜下出血
  • 強い病感(嘔気・嘔吐を伴うこともある):クモ膜下出血、脳出血、緑内障
  • 神経症状(麻痺、複視)
  • 精神症状、てんかんなどを伴う:脳出血
  • 項部硬直がみられる(髄膜刺激症状がある):クモ膜下出血,髄膜炎
  • 眼底検査でうっ血乳頭がみられる:本節すべて
  • 発熱・発疹を伴う:髄膜炎
  • 未明・早朝からの頭痛

かぶりを振ると頭痛がとてつもなく増強する(Jolt accentuation):髄膜炎
明るい物を見ると頭痛が増強する:緑内障、クモ膜下出血
虹彩が円盤状でなく球面状になっている:緑内障

プライマリ・ケアにおいて頭痛を診療する医療従事者は、以上の徴候を見逃さないことが防衛医療の上でも重要である。

Ⅶ、片頭痛と群発頭痛の相違点(Lanceによる)

片頭痛群発頭痛
性別発症率女性75%男性85%
幼年期の発症25%1%以下
片側性頭痛65%100%
発作の頻度1~12ヶ月1~8回/日
頭痛の持続時間4~24時間15分~2時間
随伴現象:悪心・嘔吐85%45%
視力障害よくある8%
流涙時にある85%
鼻閉時にある50%
縮瞳・眼瞼下垂時にある25%
顔面・頭皮知覚過敏65%15%
閃輝暗点40%1%以下
家族歴:片頭痛50%20%
生化学的変化0%0%
血清セロトニン低下80%0%
血清ヒスタミン上昇0%90%
髄液アセチルコリン上昇0%30%

肩こりについて

Ⅰ、肩凝りとは

肩こりは、急性の筋肉の外傷に続発して起こる場合や心理的要素から起こる場合を除いて、ほとんどは姿勢による筋肉に対する負担の増加と運動不足から起こる。

筋肉が損傷を受けると、炎症反応により局所的に循環不全がおき、筋肉のこわばりが起ってくる。ほとんどは自然に回復するが、循環不全が慢性化する場合もある。
怒りや心配、不安などの心理状態は、自律神経の交感神経を刺激し、局所の循環不全を誘発して、痛みを起こす物質を作り出すと言われている。

目をよく使う方に起こる肩こりの原因として、まぶたを上げる時に用いる筋の一つであるミュラー(ミューラー)筋の緊張がある。ミュラー筋は自律神経(交感神経)の支配を受けているので、この筋の緊張が交感神経の緊張を招き、肩周辺の筋に毛細血管の収縮による局所循環不全を起こし緊張させる。ゆえに眼瞼下垂の方の肩こりは手術による症状の改善により肩こりから開放される場合がある。

また、最近ではテクノストレスと呼ぶ、PC使用に伴う障害であるマウス症候群などの頸肩腕障害によるひどい肩こりも多くなってきている。

但し、急性の(今まで凝ることのなかった人が急に肩こりを感じだしたりした時)肩から背部にかけての痛みは循環器(心臓)の疾患や呼吸器の疾患が疑われるので注意しよう。

Ⅱ、肩こり・肩の痛みがあらわれる主な病気

  • こりや痛みの原因となる病気や損傷
  • いわゆる肩こり【頚肩腕症候群(けいけいわんしょうこうぐん)】
  • 肩関節の老化に伴う周囲組織の炎症【肩関節周囲炎(四十肩・五十肩)】
  • 神経、血管の圧迫障害[胸郭出口症候群(きょうかくでぐちしょうこうぐん)】
  • 頸椎の老化、椎骨の変形【変形性頚椎症(頸部脊椎症)】
  • 椎間板の老化【頚椎椎間板ヘルニア】
  • 靱帯が骨化し脊髄や神経根を圧迫【頸椎後縦靱帯骨化症】
  • 頸椎の外傷【むち打ち症(むち打ち損傷)】
  • こりや痛みが一定しない・・・[転移性のがんからのシグナル】
原因解説具体例
肩こりになりやすい体質肩こりを起こしやすいのは、右のようなタイプ。例えば、肥満体の人は、腕や頭など肩の筋肉が支えるべきお荷物が重くなる。このように、体型的に
肩の筋肉に負担がかかりやすい人のほか猫背などのように普段の姿勢が負担をかけていることもある。
・肥満体
・極端なやせ型(肩の筋肉が貧弱)
・なで肩(首や肩の筋肉が貧弱なことが多い)
・いつも背中が丸まっているような姿勢をとる
・首を下げ、下を向いたような姿勢をとることが多い
肩に無理な姿勢をとることが多い筋肉は、緊張させたりゆるめたりすることで、血液の循環を助けている。ところが、右のような姿勢を長時間とっていると、筋肉の緊張ばかりが続いて
、筋肉の血行が悪くなる。
・腹ばいになって本を読む
・寝転がってテレビを見る
・新聞を床に置いて座ったままで読む
・足を組み、前かがみでデスクワークをする
・枕が高すぎたりやわらかすぎたりする
冷え性である寒いところにいると、私たちは自然に、前かがみの姿勢で肩をすくめ、身体を固くしてしまう。また、このような姿勢を固くしてしまう。また、このような姿
勢を収縮して血行が悪くなってしまう。
・冷え症である
・夏場、クーラーの効きすぎる場所で仕事をしている
・冬場でも、長時間外にいることが多い(営業の外回りなど)
精神的ストレスに弱い精神的に緊張したり悩んだり、怒りなどを感じるとき、筋肉内の血管も知らず知らずのうちに収縮している。このため、特に筋肉を使わなくても血行が
悪くなり、筋肉に老廃物がたまってしまうのだ。
・データを取り扱う仕事など、間違えないように神経を使うことが多い
・ノルマや納期などに追われ、気が重くなることが多い
・仕事や日常生活で、不安や悩み事、怒りを感じることが多い
・責任感が強く、まじめで几帳面
・ちょっとしたことでも真剣に悩んだりしてしまう
眼が疲れているメガネなどが合わず、しっかり見るために無理な姿勢をとることで、肩こりにつながるケース、また、眼の疲れや頭痛と肩こりが連動して起こることも多い。・メガネやコンタクトが合わずにみえにくい
・長時間パソコンに向かって仕事をすることが多い
肩や首の骨や関節の異常歳をとると、首の骨に何らかの異常が起きて神経を圧迫し、痛みやしびれを起こすことがある。右のような症状のある人は、整形外科などに相談して
みることをお薦め。
・肩こりだけでなく、痛みやしびれを感じることが多い。
・腕を上げると肩が痛む
病気が原因の肩こりこのほか、内科などの病気の自覚症状、のひとつとして肩こりがあることも多い。例えば、高血圧、狭心症、低血圧、胆石(胆のう炎)、更年期障害、
貧血など。肩こりの他に右のような症状がいくつかあるようなら、内科に相談してみよう。また、がんでできた腫瘍のせいで肩こりと同じような感覚があることもある。
頭痛、頭が重い、めまい、手足の冷え、身体全体がだるい、
急に胸が締め付けられるような痛みに襲われる、背中や右
肩などの痛み、立ちくらみ

Ⅲ、診察

僧帽筋や菱形筋などの肩背部にある筋肉の疲労感、緊張感、倦怠感などの違和感や疼痛などを自覚するものをいう。
肩背部筋肉の疲労、精神的、肉体的過労から来る事が多い。
諸疾患の関連痛、投射痛として現れ、これに自律神経の失調、局所循環障害などが加わり発症する。

Ⅳ、肩凝りの治療法

肩凝りで困っている人は多いといわれている。上に引用したように、若干女性に多く、その原因としては過労、不良姿勢、精神的緊張、変形性頚椎症、胸郭出口症候群、高血圧、眼精疲労、自律神経失調症、更年期障害などの疾患に伴って起こる二次性のものと、誘因の全く見当たらない特発性がある。二次性の肩凝りは、原因となっている疾患の治療が重要であるのは言うまでもない。特発性の肩凝りの治療はしばしば困難である。

頚肩腕痛

Ⅰ、定義

頸肩腕症候群(英:cervico-omo‐brachial syndrome)は、首筋から肩・腕にかけての異常を主訴とする整形外科的症候群の一つである。肩腕症候群、頸腕症候群などともいう。作業関連筋骨格系障害(Work related musculoskeletal disorders)とも。
すなわち、頚・肩・腕の痛みはいろいろな原因でおこる。原因としては変形性頚椎症、椎間板ヘルニア、椎間関節症といった首の骨(脊柱)に関連しておこるものと、五十肩など肩関節に由来しておこるものがあり、その他に耳や鼻の病気や眼の病気、心臓や肺などの病気でもおこる。

Ⅱ、原因

広義の頸肩腕症候群は、首(頸部)から肩・腕・背部などにかけての痛み・異常感覚(しびれ感など)を訴える全ての症例を含む。この中で、他の整形外科的疾患(たとえば変形性頸椎症、頸椎椎間板ヘルニア、胸郭出口症候群など)を除外した、検査などで病因が確定できないものを(狭義の)頸肩腕症候群と呼ぶ。

狭義の頸肩腕症候群は座業労働やストレスを原因とする場合が多い。かつてキーパンチャー病と呼ばれたものもこの一種であり、現在OA病あるいはパソコン症候群と呼ばれる一連の症状もこの範疇に入る。若年層から起こり、男性より女性のほうがかかりやすいとされている。職業によって罹患した際は、頸肩腕障害と呼応され、比較的軽度の人から重度の人まで幅広い。頸肩腕症候群であることではなく、その重症度が問題の疾患である。最近の研究で、重症難治化した頸肩腕症候群の多くは繊維筋痛症の容態を示すことが多いことも分かってきた。

Ⅲ、出現しやすい症状

首筋(僧帽筋や胸鎖乳突筋)、肩、上背部、腕にかけてのこりや痛み、しびれなどで、感覚障害や運動障害を伴うこともある。目の痛みや疲れ、風邪や花粉症などによる鼻の異常、むし歯や歯周病などが、引き金になったり症状を増長させたりすることもある。また、頭痛・めまい・耳鳴りなどの一般症状をはじめ、集中困難・思考減退・情緒不安定・抑うつ症状、睡眠障害等の精神症状、レイノー現象や冷え等の末梢循環障害、倦怠感、最大握カ・維持筋力の低下、動悸、微熱ドライマウス等自律神経失調症状鳳胃腸障害、月経困難、半身感覚障害、天候による症状の増悪など多岐にわたる事もあり、必ずしも症状が上肢だけに限定されるものではない。

Ⅳ、頚肩腕痛をともなう鍼灸不適応疾患

頚肩腕痛をともなう鍼灸不適応疾患
肺癌パンコースト症候群肺尖部の腫瘍が神経叢を圧迫してシビレる
心臓病冠状動脈疾患心臓からの関連痛のために肩がこる
精神病うつ病うつ病の症状としての肩こりなど
腫瘍頚髄腫瘍肺癌や乳癌からの悪性腫瘍転移や原発性のもの
炎症強直性脊椎炎靱帯付着部の炎症性変化を特徴とする慢性多発性の関節
炎で、進行すると骨癒合する。自己免疫疾患と考えられる。
結核性脊椎炎結核菌のため、頚髄の運動制限が起こる
化膿性脊椎炎黄色ブドウ球菌の血行感染が60%を超える
頚椎の変性頚椎脊髄症(CSM)骨棘形成による変形性頚椎症、頚椎椎間板ヘルニア、後縦
靱帯骨化症による頚髄の圧迫などで起こる麻痺

Ⅴ、各疾患の症状

1、変形性頚椎症

中年以降の方で、いつも肩がこって背中に痛みがあったり、手が痺れるというような症状がある。このような場合は首の骨が一種の老化現象をきたして変形している事が原因と考えられる。首の骨(頚椎)あるいは骨と骨の間のクッションの役目をしている椎間板が痛んで骨のとげ(骨棘)や軟骨が出来てくることで、首が痛くなる状態を頚椎症という。うなじ(項部)や肩甲骨の周囲にも鈍い痛みがでることもある。軽い体操や温めたり、または安静にすることではじめは様子をみる。この状態が進み、手足のシビレや痛み・運動麻痺や進行して排尿障害が生じてくることがあると、骨棘の部位やその大きさをレントゲン線写真で調べ、脊髄や神経症状の程度を見て、ついで脊髄変形を頸椎MRIなどで検査する必要がある。この様に神経麻痺や運動麻痺がでてきた場合は頚髄症が考えられる。

2、頚椎椎間板ヘルニア

首を動かすことで、首から肩・手にひびく痛みがおこったり、せきくしゃみで痛みが強くなったりする。また手も痺れることがある。手を下げていると痛くなったりしびれたりするので、思わず手を頭に持ってきてしまうなどの症状もでる。この病気は骨と骨のクッションの役目をはたしている椎間板の髄核が周囲の線維輪に亀裂が入り、脱出することで神経の根元を圧迫し神経を刺激する事が原因と考えられる。椎間板は、首の骨と骨の間に存在し、首に動き(可動性)を持たせながらクッションとしての役割をしている。椎間板は真ん中に髄核とその周りの線維輪で構成されている。髄核は水分を多く含むゲル状の物質からなり、線維輪は丈夫な線維からなる帯状のシートが何枚も重なっており、髄核を取り囲んでいる。椎間板は、10代後半から老化(変性)が始まり、髄核の水分量の減少や線維輪に小さな傷が生じる。その傷から髄核が外に飛び出した状態が椎間板ヘルニアである。頸椎椎間板ヘルニアは、中年以降の方に多くみられる。症状はヘルニアの出方によって違う。一般的にはどちらかに偏って出ることが多く、その場合には脊髄から分岐した神経の枝(神経根)を圧迫することにより、片側の頚部、肩から肩甲骨の痛みやしびれ感、腕へひびく痛みや手の力の低下を生じる。一方、真ん中に大きく出た場合には脊髄を圧迫し、手や指の細かな運動がしづらい・歩行障害・膀脱直腸障害(頻尿、尿閉、尿失禁または便秘など)などの症状が出現する。

3、頚椎椎間関節症

頚椎の小さな関節が捻挫や関節の変形で、首と肩や背中の痛みをおこし、寝違いのような強い痛みを生じる。関節にある小さな組織が関節に挟まったりした場合は、首が動かない状態になる。
いわゆる寝違いも、首の関節の異常で起こる場合がある。

4、頚椎後縦靱帯骨化症

首の骨の後面で、脊髄に接している後縦靱帯に石灰がたまって骨化し、脊髄を圧迫する病気である。進行すると脊髄圧迫による頚部や肩の痛み・手足のしびれ・手指の運動や歩行の障害などを生じるが、進行は非常にゆっくりで転倒などの外傷がない限り、症状の進行はほとんどない。40~50歳台の男性に多いとされている。原因については、はっきりしていない。診断は頚椎のレントゲン写真で可能で、脊髄の圧迫の程度をみるにはMRI検査が有用。

5、いわゆる“ムチウチ症”(頸椎捻挫外傷性頚部症候群)

追突などの交通事故や転倒で起こる事がある.頚・肩甲背部が痛い・頭が重いなどが主な症状で、ときに目まいや目のかすみ・耳鳴・嘔吐などの症状が出てくることがある。また手がしびれたりすることがある。このムチウチ症の中に、低髄液圧症候群が生じている方がまれ(数%という報告があり)にいる。この病気は、脳脊髄液がどこからか漏れており、特に立っているときは絶えず漏れているために頭蓋内の圧が低下し、頭痛・嘔気・めまい・だるさ・背中や首の痛みが強く認められることがある。立位や座位で症状が悪化し、横になると軽快する。

6、胸郭出口症候群

この病気は第1肋骨とその周りの筋肉や腱の間で血管や神経が圧迫されて起こる病気。若い女性でやせ型肩幅が狭くなで肩の人が多くかかる。症状は多彩で一般には頚から肩腕にかけての痛み・痺れ・凝りや手の冷感などが生じる。特に腕を挙げると症状が強く出る。

7、五十肩(肩関節周囲炎)

肩の関節をつくっている筋肉や腱.滑液包などが老化現象を起して発症する病気。顔に手を持っていく・帯を結ぶなどの動作がつらくなり、腕のやり場がない・夜間に痛みが強くなるというような特徴的な症状がある。場合によって、肩腱板に石灰が沈着する石灰沈着性腱板炎があり、強い痛みを伴う。超音波で診断する場合がある。

8、肩腱板断裂

主に肩を打撲した既往がある人に起こり、肩の腱が切れる事により、腕の上げ下げで、肩の外側が痛いという症状がある事が多い。MRIや超音波などで診断する。

9、肩こり

原因としては首の骨の変形・不安・ストレス・無理な姿勢で起こる。長時間の不自然な姿勢によっても起こる。

10、寝ちがい(急性疼痛性頚部拘縮)

頚椎の椎間関節や軟部組織に原因がある場合が多いが、扁桃など鼻やのどに病気があっておこる場合もあるので注意が必要。その他に末梢神経が色々な原因でしめつけられて痺れ・痛みがおこる病気、腕や手に傷を受けてなおったあとに痛みが起るカウザルギーといった病気などがある。

寝違いについて

眠っていて目が覚めたときに、首の後ろや首から肩にかけての痛みが出ることがあり、いわゆる「寝違え」と言われている。首を動かすと痛みが出る時もあるし、痛みで首を動かせない時もある。

Ⅰ、寝違いの原因は頸部の炎症

寝違えの正体は頸椎症だった。

頸椎症の入り口である肩こりを放置して悪化させると、頸椎症スペクトラム(狭い意味の頚椎症が起こってくると、頸椎が変形するとともに、トゲ状の骨(骨棘)などが生じてくる。椎骨同士の隙間も狭くなり、そこにある椎間板が薄くなる。それらによって、神経の通り道である椎間孔も狭くなってくる)の第二段階に進行していく。やがて「狭い意味の頸椎症」が見られるようになってくる。つまり、頸椎に変形やトゲが現れるようになったり、椎間板が薄くなったりし始める。
寝違いを発症すると、その痛みは想像以上の痛みを生じるケースが多くある。

この痛みの主な原因は

  • 頸部の炎症による痛みが主な原因。

寝違いの発症パターンとしては

  • 急性的・突発的原因
  • 慢性的原因の2つの原因が考えられますが、一般的に見られる寝違いは
  • 急性的・突発的原因によるものが大半のケースを占める。

通常、人は眠っている場合、常に体のポジションを無意識に変えながら眠っている。

Ⅱ、診断

起床時に痛くなり、数時間から数日で痛みが改善していくようなら、徐々に首を動かしていくことで治っていくのが一般的である。手足のしびれはないか、手足の動きは正常か、深部反射(ハンマーで手足を叩いて反応を見ます)は正常かを診察する。「寝違え」の場合には、首の動きは制限されているが、検査では変化は認められない。
痛みが治らず診察で異常がある場合には、頚椎椎間板ヘルニア、頚椎症性神経根症、頚椎症性脊髄症、転移性脊椎腫瘍、脊髄腫瘍、強直性脊椎炎、関節リウマチなどの本格的な病気の可能性もあるし、肩こりの症状が強いだけの場合もある。

Ⅲ、寝違いとは?

寝違いとは?

(診察)
就寝前には異常はなく、起床時に発症する急性の筋・筋膜症を言う。
首や肩、背中の強張り痛み。
痛みのため頭を持ち上げられない。
首を回すことが困難で、運動により疼痛が増強する。

(効果の良い症状)
痛み部位が首、肩、背部に限局している。
ゆっくりと少しづつであれば、痛いながらも動かすことが出来る。
運動によって症状の悪化を見ないもの。

(効果の良くない症状)
按摩機を使用したり、素人按摩などをして症状を悪化させたもの。
事故や外傷の既往歴がある(頚部外傷症候群)。
頚椎々間板ヘルニアや変形性頚椎症などの一次原因を有するもの。

寝違いは、頚部が何らかの原因で炎症を起こすことによって発症する障害である。場合によっては1ヶ月程度痛みを引きずることもあり、馬鹿に出来ない障害といえる。
発症パターンには様々なケースが存在し医学的に確実な原因は未だ解明されていない。

Ⅳ、寝違いの独特な症状について

寝違いの症状は基本的に首を中心に独特の症状を発症します。以下の症状のいずれかに該当する場合は、寝違いの可能性が考えられます。

  • 寝起き時に首にこわばりがあり、起きるのが辛い
  • 首をまわす角度が大きくなるほど徐々に首の痛みが増す
  • 無意識に横を向く際に、体ごと回してしまう
  • 腕がだるい・腕にしびれがある(特に前腕部分)
  • 上を向くのが辛い

などの症状が寝違い症状の特徴である。
尚、痛みとともにしびれなどを併発している場合は神経系の障害を検討する事となる。